キャンバスに塗る色も、絵の題材も、いつもGAKUが自分で決めて迷いなく描く。個展をすると言い出したのもGAKUだ。
「GAKUの絵、美術館持ってく〜!」
「個展したいの? 本当に?」
美術館によく絵を見に行っていたので、美術館は絵を飾るところだということをGAKUも知っていた。
最初のうちは「うん、今度ね」「はいはい、わかった」と返していたが、あまりに何度も言うので典雅さんに相談すると、「そんなに言うならちょっと調べてみるか」と即決。
世田谷美術館の区民ギャラリーで偶然空きがあり、GAKUが言い出して2か月後、18歳の誕生日に初のレセプションが開催された。
「私は私なりに絵を見る目があると思うし、彼を自閉症アーティストではなく、ひとりのアーティストとして見てきたので、個展で絵を売るなら、寄付ではなく、絵が本当に欲しい人にしか売らないということを典雅さんと決めました」
作品を簡単には手放したくないという思いもあり、通常の新人アーティストとしては高値となる1点数十万の値をつけた。終わると作品が10点以上売れた。
翌年には、「NY! ミュージアム!」と言い始めた。それはさすがに無理だろうとみんな思っていたが、佐藤ファミリーとココさんで下見を兼ねて旅行に行くと、ちょうどいいギャラリーが見つかり、コロナの感染が拡大する直前に実現した。
今、父親である典雅さんは、仕事で培ってきたプロデュース能力のすべてをGAKUに惜しみなく注いでいる。
「子どものころから急に全力で走り出すがっちゃんをただ追いかけることだけしかできなかった。放課後がっちゃんが楽しく過ごす場所がなければつくるし、絵を描きたいって言えばその環境を整える。がっちゃんの可能性をいかに奪わずに守るか。障がいのある子もない子も、次の世代の可能性を大人の都合で奪わない。そこは人生を懸けて戦わなければならない。たぶんね、それが俺に与えられたミッションなの」
アトリエ近隣のコンビニやコーヒーショップの人たちは、突然店内に走ってきて手を洗い、出ていくがっちゃんに声をかけ、見守ってくれるようになった。がっちゃんも手を洗うときはクッキーを1枚買えるようになった。
「自閉症や障がいについての理解をコツコツと広めるよりも、GAKUのことを日本中、世界中の人が知ってくれたほうが早いんだよね、たぶん。今日、GAKU見たよ、カッコいい、ラッキー!って言われるようになるのがいちばんだなと思って。そうなったら、いろんな特性を持った子どもたちへの理解が広がるよね。次の目標は森美術館で個展やりたいな(笑)」
GAKUは今でもときどきココさんに尋ねることがある。
「ココさん、何を描く?」
「なんでもいいよ」
「何を描く〜?」
「じゃあ、赤いマルはどう?」
「NO!」
そう言って、知らん顔で黄色い四角を描く。アーティストとしての振る舞いか、生まれついての王様気質か。
ある日、ココさんはGAKUにこう尋ねてみた。
「がっちゃんにとって、ココさんは何? 先生? お手伝いさん? それとも……」
GAKUは迷わず答えた。
「フレンド!」
胸が熱くなる。
「がっちゃん、私のこと友達だって思ってくれてたんだ。そうか。だから一緒にいたら楽しいし、時には喧嘩もするんだよね。そう思いました。不覚にも泣きそうになっちゃった(笑)。
私の中では、『障がいのある子に福祉の仕事をしてる』んじゃなくて、『毎日がっちゃんっていう友達と一緒にいます!』っていう感じ。寂しかった5歳のころの私が、がっちゃんといきいきと遊んでる。
私はいくつになっても子どもっぽいところがあるんだけど、ずっと大人になりきれなかったのは、こうしてがっちゃんに出会うためだったのかなって思っています」
階段を駆け上がる音がして、がっちゃんがひょいっと顔を出す。
「ココさん! ランチ!」
「はいは〜い!」
◆『byGAKU-20』画集本 クラファン・プロジェクト◆
自閉症アーティストGAKUの20歳を記念した企画プロジェクト。これまでの600点以上の作品の中から最も人気の高かったベスト・オブ・ベストをセレクト。さらに6名の先鋭カメラマンにGAKUモデル撮影を依頼。それぞれの持ち味を生かして新しいGAKUの表情が引き出されています。SDGsアートとSDGsモデルとして活躍するGAKUの金字塔となる画集本となります。(開催期間 7/20~8/20予定)https://readyfor.jp/projects/bygaku20