行政書士・ファイナンシャルプランナーをしながら男女問題研究家としてトラブル相談を受けている露木幸彦さん。今回は、娘の予期せぬ妊娠を知ったシングルマザーの事例を紹介します。

※写真はイメージです

コロナの影響で中絶を選んだ女性たち

 昨年から始まり、終わりが見えない新型コロナウイルスとの戦い。コロナ禍において「死」と向き合わない日はないと言っても過言ではありません。コロナによる犠牲者として真っ先に挙げられるのは感染者と自殺者。例えば、ウイルスに感染し、亡くなった方は約15,014人(7月16日現在、厚生労働省調べ)。そしてコロナ不況下、経済的な理由などで自ら命を絶った方は30,179人(2020年2月~2021年6月、警察庁調べ)。

 娯楽、経済、交通……コロナの発生よって失ったものは多いですが、コロナ後に挽回できる機会はあるでしょう。しかし、死者を生き返らせるのは無理です。そのため、「命」の問題は他と切り離して考えるべきだと思います。筆者がそのことを強く感じたのは、昨年、香澄・香蓮親子(仮名)の相談にのったからです。香澄さんのひとり娘・香蓮さんは昨年9月、赤子を身籠ったことがわかったのですが、経済的な理由で出産をあきらめるしかありませんでした。そのため、妊娠の診断を受けた病院で12月、中絶の手術を受けるという残酷な運命に。

 厚生労働省によると2020年、中絶手術を受けた女性のうち、全体の7.7%はコロナが理由だということが分かりました。それなら、この世に生を受けることができなかった胎児もコロナの犠牲者に数えてもいいのではないでしょうか?

「コロナの影響があった」と答えた理由は多い順に「パートナーの収入減少や失業中の妊娠であった」「自身の収入減少や失業中の妊娠であった」「妊娠継続中に感染するのが怖いため」「外出自粛中のセックス回数増加のなかでの妊娠だから」などが続いています。参考までに避妊ありは全体の35.4%、なしは47.1%。

「デキちゃったらどうしよう」と考えず、ベッド上の勢いで身体の関係を結ぶ男女のほうが多数派かもしれませんが、妊娠がわかったとき、彼女たちの選択肢は中絶だけなのでしょうか? 予期せぬ妊娠だけれど、せっかく授かった命なので大事にしたい。このまま出産し、子どもを育てていきたい。そんなふうに前向きに考える女性も含まれていますが、前述の香蓮さんもその1人でした。それなのになぜ、香蓮さんは自分の希望とは逆の「中絶」を選んだのでしょうか?

<登場人物(年齢などは相談時点、名前はすべて仮名)>
母:香澄(39歳・パートタイマー・年収160万円)☆今回の相談者
娘:香蓮(21歳・大学3年生)
胎児の父:伸二(28歳・香蓮のバイト先の店長)

「やっぱり許せませんよ! 娘は今でも後遺症に悩まされているのに、あの男ときたら!!」

 香澄さんは声を荒げます。娘である香蓮さんの妊娠がわかったのは2020年9月ですが、香澄さんが筆者のところへ相談しに来たのは妊娠3か月目の11月でした。

 香澄さんは「娘には今まで不憫な思いをさせてきました」と嘆きます。娘さんは当時、大学3年生ですが、「ある家庭の事情」を抱えており、大学の教科書やゼミの合宿費、電車の定期代、自分のスマホ料金や国民年金の保険料、そして昼食や衣服代などの小遣いを自分で稼がなければなりませんでした。

 勉強できるのは昼間だけで、夜は1,300円と時給が高めの居酒屋でアルバイトに励む日々を送っていました。居酒屋で働くのは3年目。店長や先輩、後輩に恵まれ、同僚同士は仲がよく、一緒にバーベキューや花火大会、海水浴に行くなど店外でも親睦を深めるほど。「大学のサークルのようなノリでした」と香澄さんは振り返ります。