感染リスクの高い行動をやめない夫

 夫は打てるワクチンを打たないのだから、ウイルスに感染したら元も子もありません。「陽子さんが無事だったのを見て、さすがに旦那さんも心を入れ替えるのでは?」と筆者はアドバイスし、しばらくの間、様子を見ることに。夫はワクチンの件をきっかけに過去の態度を悔い改め、感染対策を無視するのをやめ、これからは真摯に取り組むはず。陽子さんはてっきりそう思っていました。しかし、夫の性根は何1つとして変わっていなかったのです。

「いやはや、ひどい目に遭った。完全にぼったくられた、許せんわ!」6月上旬、夫はそうぼやきながら、玄関を開けたのですが、何があったのでしょうか?

 3回目の緊急事態宣言下にもかかわらず、夫は懲りずに地元の悪友4人と繁華街へ繰り出したそう。しかし、オリンピックの開催が正式に決まり、開催を間近に控えて飲食店への自粛要請も厳しくなっている中、闇営業の店を自力で見つけられないまま歩いていたところ、ひそひそ声で耳打ちする若い男性が。「うちは開いていますよ。こんなご時世だから、楽しんでいってください」と。とにかく飲んで、騒いで、憂さを晴らしたい夫と仲間はその声掛けを怪しむことなく、男性の道案内に従い、喜々として入店。

 しかし、メニューを見て愕然とします。例えば、生ビール2,500円、枝豆3,000円、唐揚げ4,000円。これは1人前の値段です。夫が「ヤラられた!」と思っても、もはや手遅れ。ガタイのいい男3人が出入口をふさぎ、「何か注文しなければ」外に出られない状況だったのです。仕方なく5人分の生ビール、枝豆、唐揚げを注文し、そそくさと平らげると、ようやく退店することを許されたのですが、伝票に書かれた値段は飲食代だけではありませんでした。お通し500円、席料700円、サービス料800円が人数分、上乗せされていたのです。最終的な会計は57,500円。1人あたり11,500円なので、ずいぶんな高級店で会食したような金額に。「金を出さないと返さないぞ」という目で店員が睨みつけてきました。

 彼らは手持ちの現金で支払えず、クレジットカードで決済したのですが、「あとで明細を確認しないと。架空請求されていないか心配だ」と夫は憤ります。店員全員の「ありがとうございました!」の大声で見送られたのです。コロナ不況で悪事に手を染めたのか、コロナ前から「ぼったくり居酒屋」だったのか、それとも反社会的勢力が絡んでいる店なのか。今となっては定かではありませんが、陽子さんが首をかしげたのは適法か違法かではありません。ワクチンを接種していない夫がいまだに感染リスクの高い行動をとり続けていたことです。

「あんたの行動はおかしくない? みんなが自粛しているのに! 他のお店は自粛しているんだから、そこのお店がおかしいのよ!」

 陽子さんはそう叱責したのですが、怒りはおさまりません。「どうせ店員はマスクをしてなかったんでしょ。感染しに行くようなものだわ」と畳みかけ、ありったけの怒りをぶつけたのですが、夫は無反応。さっさと自室へ引きこもってしまったのです。

 筆者は「残念ながら、旦那さんはそういう人間なのでしょう。旦那さんの性格が今さら変わるとは思えないので」と苦言を呈したのですが、「うちの家庭はもともとうまくいっていなかったのに、今回のコロナで余計にその思いが強くなりました」と陽子さんは答えます。さらに「コロナが落ち着いたら家を出ようって思っています!」と言い、今まで積もり積もった不満が今のタイミングで限界に達し、ついに離婚を決断したようです。

 統計上(国立精神・神経医療研究センター調べ)、新型コロナウイルスのワクチンを接種したいと答えた人は35.9%。一方で様子を見てから接種したいは52.8%、接種したくないは11.3%と、消極的な回答が6割を超えています。このことから陽子さん夫婦は特別ではなく、ワクチン接種をめぐる夫婦喧嘩はどの家庭で起こっても不思議ではないのです。そのため、陽子さんの苦悩を他人事だと思わず、他山の石にした方が賢明です。


露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/