テレビが今より話題の中心だった時代、ニュースやワイドショーの時間の「顔」は、みんなの関心ごとでもありましたーー。時代の変遷や衝撃、ワクワクを伝えてくれたあの人は、今、どうしているの? 現在、コンサート・ソムリエとしても活躍中の朝岡聡さん。その根底には、先輩たちとの出会い、経験が影響していてーー。

朝岡聡(あさおか・さとし)
 1959年、神奈川県出身。慶應義塾大学卒業後、テレビ朝日に入社。『ニュースステーション』の初代スポーツキャスターを務め、スポーツ番組でも活躍。1995年フリーに。コンサート・ソムリエとして、クラシックコンサートの企画構成や司会も行う。近著は『恋とはどんなものかしら 歌劇(オペラ)的恋愛のカタチ』(東京新聞刊)。

テレビの仕事が減ったことが“きっかけ”に

 『ニュースステーション』の、元気いっぱいなスポーツキャスターだった印象が強い朝岡聡さん。しかし、実は運動は苦手で、学生時代からクラシック音楽への造詣が深かったという。

「35歳でフリーになりましたが、40歳を過ぎたときにテレビの仕事が減ってきたんです。せっかく時間ができたので、好きな音楽をヨーロッパに聴きに行きたいと考え、『音楽の友』という雑誌で連載させてもらうことに。

 毎月1回、ヨーロッパに行ってオペラを見て、名物を食べ、観光名所へ行って、自分で写真を撮り、原稿を書くという仕事をしました。

 それが音楽留学のようになって知識も増え、音楽の世界をメインのフィールドにすることに決めたのです。有名な曲を聴いてもらう前に僕がわかりやすく解説をする。そういうスタイルで司会を始め、今はコンサート・ソムリエとして、司会だけでなく企画も行っています」

ヴェルサイユ風の衣装をまとって、フランソワーズ・モレシャンさんと
ヴェルサイユ風の衣装をまとって、フランソワーズ・モレシャンさんと

 知らない人には敷居が高いオペラやクラシックのコンサートだが、始まる前に朝岡さんが身近な題材やたとえを交えて解説してくれるので、楽しく聴くことができると好評だ。

「オペラやクラシックは退屈だと思ってしまう人も多いのですが、楽曲が作られた背景や、『ここでこんな音が鳴ります』といったことを伝えると、が然興味を持って聴いていただけます。

 お客様に『また聴きに行きたい!』と思ってもらえるようなコンサートにすることが僕の仕事。アナウンサーとして培ってきた話術を生かし、大好きな音楽を紹介できるので、天職だと思っています。絶対に楽しんでいただけますので、ぜひみなさんもいらしてください」

 息子である朝岡周さんもサックス奏者として活躍している。

「小さいころからコンサートに連れていっていたので、音楽に触れる機会は多かったのでしょう。僕の背中を見て、好きなことをして生きていいんだと学んで、音楽の道に進んだのだと思います」

 朝岡さんがアナウンサーになったのは、『ザ・ベストテン』や『ぴったしカン・カン』を見て、久米宏さんのような司会者に憧れ、クイズやバラエティー番組をやりたかったからだそう。

「もちろん希望がすぐに叶うわけではなく、最初の配属はプロレスの実況番組でした。古舘伊知郎さんのかばん持ちを1年やって、アナウンサーのいろはを叩き込まれました。自分で取材をして、自分の言葉でしゃべるスポーツ実況に原稿はありません。

 そのときの経験が、今のコンサートの司会にも生きています。若いときに古舘さん、ニュースステーションの久米さんという名人に接することができて本当によかったと思っています」

取材・文/紀和静