まずはこの事実を知ってもらいたい

 駅アナウンスをなくしてほしいという要望に、鉄道事業者から反対意見は出なかったのだろうか。

「基本的には私たちの話を聞いてもらうスタンスだったので、何か否定的な意見が出たりすることはありませんでした。実は駅アナウンスをしているのってほとんどが関東の鉄道事業者。なので、地方から障害者が東京に来るとみんなびっくりするんですが(笑)。

 そのオンラインでは関東以外の鉄道事業者が、例えば無線で運転手に伝えたりしているとか、自分たちの駅ではどうしているのかとか、そういった取り組みを話してくれたりもしました」

 国土交通省に掛けあって1か月。前向きな動きがある一方で、今もまだ駅アナウンスが続いているのが現状だ。そこで、まずは多くの人にそういった被害のことを知ってもらうという意味も含めて、先月25日、被害の公開に踏み切ったという。

 そんな“駅アナウンス”について、実際に佐藤さんはどう思っているのだろう。

「正直、なんで俺の行き先をわざわざ駅全体に言わなきゃいけないんだろう? って、ちょっと不思議な感じはしていました(笑)。

 ちゃんと安全に乗車しました、降車しましたと運転手に伝える安全確認はなくてはならないものですが、駅アナウンスではなく、他の方法でもできるなら、その方法でお願いしたいというのが私たちの希望です」

 駅アナウンスを聞いて、わざわざその人が乗る車両まで来て、迷惑行為をする人たち。電車に乗るときは乗務員が協力してくれるが、乗車中は一人。そこに見知らぬ人が来て嫌がらせ行為を始めたら、たまったもんじゃない。

「僕らはほかの車両に逃げることはできません。そこにいるしかないんです。降りる駅もアナウンスされてしまうことで、同じ駅で降車、家まであとをつけられ、今でもストーカー被害を受けている人もいます。夜中に家の窓に石を投げ込まれたりして。警察には相談しているんですが…」

 今回の被害事例の中には、乗り換え駅と下車駅を周りの人に聞こえないように言ってほしいと乗務員にお願いしたところ、近くにいた人から「乗せてもらっているのにえらそうなこと言うな!」と怒られたという声もあった。

私たちにできること

 もし、困っている人を見かけたら私たちにできることはあるのだろうか。

「その人が親切心で声をかけてるのか、はたまた違う目的があって声をかけてるかの判断って、周りの人は難しいと思うんです。被害に遭った女性に聞くと、迷惑行為をしてくる人は基本的に“しつこい”と言っていました。何度も声をかけてきたり、もう大丈夫ですって断っても離れてくれなかったり。

 そういう場面を見かけたら、ちょっと声をかけてもらったり、駅員さんに伝えてもらえると安心できるのかなと。ただ、危険な場合もあるので、なかなか難しい問題です

 個人でできることには限界があるが、“まずは知ってもらう”ことに意味があると佐藤さん。

「なんでここまでこの現状が知られてなかったかというと、被害者たちにとっては思い出したくもない記憶で、これまで人にはほとんど話してこなかったという背景があります。実際に聞き取りのときには、“二度と聞かないで”という被害者もいたそうです。

 これまで世の中に出てこなかっただけで、おそらく世の中にはもっとたくさんこういった被害があると思います。まずは知ってもらえることで、何かが変わるきっかけになればと思っています」

 多くの人がこの現状を問題視すれば、何かさらなる動きがあるかもしれない。今後、駅アナウンスはどう変わっていくのか。そもそも迷惑行為や嫌がらせをする人がいなくなればいい話なのだがーー。引き続き、対策が求められる。