SNSや動画など、相談・PRに工夫

「いのちの電話」では、若年層の相談を受け入れたい思いがあるが、広報や相談体制が課題だ。

「北海道」は、札幌市内を拠点に活動するロックバンド「ナイトdeライト」とコラボレーションして、若者向けのメッセージ動画を制作し、DVDを4000枚作り、全道の中学・高校に配布した。また、バンドのメンバーに牧師がいることから、全国のミッション系の学校にも配布。動画制作にはクラウドファンディングを利用、完成したDVDを返礼品として送った。提供された楽曲はユーチューブで公開している。

「北海道いのちの電話」が作成したコラボ動画はユーチューブで公開中
「北海道いのちの電話」が作成したコラボ動画はユーチューブで公開中
【写真】電話が苦手な人へ向けた、いのちの電話「LINE相談窓口」

 こうした取り組みが地元メディアで取り上げられ、その影響か、今年の相談員募集には例年より多い50人ほどの応募があった。

「20〜30代の応募者も10人ほどいました。若い世代がこれほど応募してくるのは極めて異例で、研修では雰囲気が違いますね」(北海道・事務局長の杉本さん)

 いかに若年層に相談を意識してもらうか。「茨城」では今年5月からLINE相談を始めた。受付時間は、第5週を除く日曜日の午後4時~7時50分と、第2火曜日の正午~午後3時50分。全国のセンターの中では初めての試みだ。1人1日1回、50分まで利用できる。

「茨城いのちの電話」で始めたLINE相談。受付時間は限られているが電話が苦手な若年層でも利用しやすい
「茨城いのちの電話」で始めたLINE相談。受付時間は限られているが電話が苦手な若年層でも利用しやすい

「若者の自殺が目立つ中で、若者に“電話してきてください”と言うのではなく、若者が日常的に使っているツールを利用しようということになりました。相談員の若返りも期待しています」(事務局長の多田博子さん、以下同)

 若者の就労支援を行う「サポートステーション」やハローワークで広報したことで、LINE相談には5月末から8月までに35件の相談が寄せられた。

自殺傾向がある人からの相談は、近年は8%でしたが、今年は11.8%と多くなっています。ただ、LINE相談では少ないですね。初めて連絡したという人や、“電話相談にかけたけれど、つながらないからLINEにアクセスした”という人もいました」

 また「茨城」では、既存の電話相談員から希望者を募り、厚生労働省や行政などがSNS相談を委託しているNPO法人「東京メンタルヘルススクエア」で研修を実施。インターネット相談をしているNPO法人「OVA」の講演も開いている。

「広報が十分ではないので件数は少ないですが、相談にLINEという窓口が増えるのはいいことだと思います」

 コロナ禍という逆境の中にあっても、「いのちの電話」はさまざまな方法で悩める人々に寄り添い続けている。

各地の相談先は「日本いのちの電話連盟」ホームページhttps://www.inochinodenwa.org/lifeline.phpに掲載。

「日本いのちの電話」では毎日午後4時~9時、また毎月10日は午前8時~翌11日の午前8時まで、0120-783-556で相談を受け付けている。

取材・文●渋井哲也●ジャーナリスト。長野日報を経てフリー。若者の生きづらさ、自殺、いじめ、虐待問題などを中心に取材を重ねている。『学校が子どもを殺すとき』(論創社)ほか著書多数