『たかが猫くらい』ではない
では、虐待犯は逮捕後に更生することは可能か。
「攻撃してくる相手には直接反撃できず、心になんらかの傷やストレスを抱えた状態で生活しています。それを癒さない限り、生活、ストレス、虐待のサイクルが改善されることはありません」
重要なのが“心の傷”を癒す時期だという。
「子どもの場合、親がしっかりと愛情を与え直すことで更生する可能性は非常に高い。しかし、虐待事件の容疑者の多くは30歳未満の成人男性。なんらかの人生の転機を迎え、過去の自分の過ちに気づくことができれば更生の可能性はなくはありませんが…」
一度ハマってしまった虐待のサイクルから抜け出すことは容易ではないのだ。
だが、猫虐待事件は増加、阿部教授は警鐘を鳴らす。
「猫を含む動物虐待の急増は日本社会が他人への“共感”が欠如してきたことの象徴です。敵意を抱き、他人を攻撃する前に猫に虐待として向けるなど悪化しています。これを放置すれば、他者への攻撃性を隠した人間で埋め尽くされるおそれがあります」
このままでは社会は信用できない危険人物があふれ、子どもを外で遊ばせることも、会話することにも危険を伴う可能性があるそうだ。
猫が虐待されない社会を目指すには何が必要なのか。
「家庭と社会、そして警察の連携です。警察には動物対策を兼任する部署を設ける必要があります」
『たかが猫くらい』ではない。むしろ動物を正しく扱うことによってはじめて、社会は正常化するという。
猫への悪意はいずれ人間に向けられる。それを止めるのは社会への愛情を向けることなのかもしれない。
お話を聞いたのは
北田直俊さん
映画監督。合同会社adg-ethics代表。動物関連の作品を数多く手がける。動物虐待事件がテーマのドキュメンタリー映画『動物愛護法』、劇映画『彷徨う魂』は来年公開予定
桐蔭横浜大学
阿部憲仁教授
全国刑務所面接委員連盟理事。'15年ノーベル平和賞公式名誉来賓。「米国凶悪犯たちの生い立ち」と各国共通の「社会問題のメカニズム」を分析。安全な家庭や社会を提言
これまでに起きた主な猫虐待事件(抜粋)
発生場所・逮捕月日/容疑者(当時)/概要/処罰
●福岡県福岡市・2002年8月7日/無職の男(27)/自宅浴室でハサミや針金を使って子猫の尻尾や耳を切ったり、首を絞めているところを撮影。虐待の様子を実況中継するなど残忍で悪質。事件後につけられた猫の名前から通称・こげんた事件とも言われる。/動物愛護法違反 懲役6か月 執行猶予3年
●神奈川県川崎市・2011年11月10日/会社員の男(45)/虐待目的で猫を譲り受けていた里親詐欺。猫を床にたたきつけてケガをさせたり、川に投げるなどして虐待を繰り返していた。複数の猫が行方不明になっており、逮捕事案以外にも猫を殺害していたと見られている。/詐欺罪 動物愛護法違反 懲役3年 執行猶予5年
●兵庫県神戸市・2016年8月16日/無職の女(31)/自宅マンションのベランダでオスの子猫を鉄製の焼却炉に入れて生きたまま殺害。その様子を動画で撮影し、SNSに投稿していた。/不起訴
●埼玉県深谷市ほか・2017年8月29日/税理士の男(52)/2016年3月から'17年4月の間に捕獲した猫に熱湯をかけたり、ガスバーナーであぶるなどして少なくとも13匹を死傷させた。その様子を撮影し、動画をネットに投稿していた。/動物愛護法違反 懲役1年10か月 執行猶予4年
●奈良県奈良市・2017年12月2日/奈良県嘱託職員の男(25)/自宅で猫2匹を殺害、その死体を同県奈良市内に遺棄した。仕事でストレスがあり、飼い猫が言うことを聞かないために怒りを募らせ、暴行を加えて殺害した。/廃棄物処理法違反 動物愛護法違反 懲役1年 執行猶予3年