七尾さん自身、ミュージシャンとしてコロナ禍の影響を受け続けてきた立場でもある。昨年4月以来、ライブは軒並み中止。スケジュールは白紙に追い込まれた。

「今年に入ってからますます音楽シーンは追い込まれていますね。お客さんを呼ぶにはリスクが大きすぎると思い、僕自身もワンマンライブを断念しました。それで時間ができたのもあり、置き配に行くということをやってみようかと思い立ったんです」

 8月22日にフードレスキューを開始して以来、2週間あまりで15~16件に食料を送った。食糧の調達から発送まで七尾さん自身で行い、費用もすべて負担している。

「最初は自宅のある横須賀市内に限定していたんですが、申し込みが来なくて、2日目ぐらいから対象を全国に切り替えました。最近は置き配をしてくれるオンラインストアも多いので。それ以来、ポツポツと応募が来始めるようになりましたね。

 支援をするにあたって、自腹で、1人でやるというスタイルは崩さないようにしています。僕も仕事があるし、がん闘病中の犬も抱えている身。でも、メールをくれた人に食糧や物資を送るぐらいなら1人でもできる。自分にやれることは何かを考えて、とにかくまず動いてみようと思って始めたんです」

保健所と連絡を取れない自宅療養者

 フードレスキューへの申し込みは、七尾さんのホームページにあるメールフォームから行う。名前や住所といった必要事項のほか、どういった状況に置かれているのか応募者自身の情報についても記入してもらう仕組み。募集対象を全国に拡大して以来、北海道、関東、関西など、日本中から支援を求める声が寄せられるようになった。

「いちばん最初に連絡をくださったのは、関西の大学院生。頼れる家族や友達が近所にいなくて、ひとりぼっちで自宅療養している女性でした。高熱のほかに味覚や嗅覚の障害もあるのに、保健所とまったく連絡が取れない。仕方なく自力で買い出しに出て食糧を調達していたところ、血の混じった痰が出始め“外出したらまずいんじゃないか”と思うようになったそうで。経済的にも困窮しているというので、おかゆやゼリー、経口補水液などを見繕って送りました

 家庭内感染をした人たちからもSOSが舞い込んでいる。

「ショックだったのが、シングルマザーで難病を抱えている女性からの申し込み。大阪で2人の息子と高齢の母親の4人で暮らしていたところ、最初は次男が感染して、やっぱり保健所と連絡が取れないまま放置されるうちに、長男と母親にも感染してしまいました。命にかかわる状態です。これ以上の家庭内感染をなんとか回避してもらうためにサージカルマスクやビニール手袋などの物資を追加で送りましたが、ここ3日ぐらい連絡が取れないので心配しています」