年賀状で取り戻した恋心
あまりに日本語が流暢なので、日本人と話しているような錯覚を起こすが、照れもなく妻を褒めるところは、生粋のアメリカ人だ。
「僕は、奥さんほど好きな人に会ったことないです。すごくかわいい!簡単に僕と話を合わせないのがポイントで、議論できるから刺激的です」
出会いは、パックンマックンを結成した翌年のこと。
「僕らの路上ライブを、奥さんが見ていた」のがきっかけだというが、妻のハーラン・芽衣さん(42)は、「違うんです」と笑う。
「ライブが終わったところに通りかかって、お客さんの出したゴミを外国人が拾う姿に、偉いなってちょっと立ち止まっただけなんです。パックンマックンのことも、まったく知りませんでした」
それでも、「ファンかも!」と勘違いしたパックン。当時、モデルをしていた芽衣さんの美しさにひと目ぼれ。猛アタックをかけた。
ところが─。
「僕は悪い男です!」と、突然ひれ伏すパックン。
芽衣さんによれば、その後、何度か食事に行ったものの、女の子を見ると、すぐに声をかける軽薄さに呆れ、「携帯を着信拒否した」とのこと。
身から出た錆で、バッサリ切り捨てられてしまったのだ。
そんな2人が再会したのは、1年半後。パックンから年賀状が届いたからだという。
芽衣さんが話す。
「年賀状っていうのが、なんだかほほえましくて。久々に会ったら、すごく落ち着いていて、まあ8歳も年上ですから落ち着いてなきゃ困るんですけど(笑)。マックンや仕事関係の方にも、本気で付き合いたいなら信頼関係をつくらないとダメだと言われたみたいですね。真剣さが伝わってきました」
それからは急展開で、なんと再会したその日のうちに同棲生活をスタート。4年の交際を経て結婚し、以来17年、2人の子どもにも恵まれた。
芽衣さんが続ける。
「こういう取材では、夫のダメぶりを話したほうがいいんでしょうけど、ごめんなさい、ほんと理想的な夫なんです。彼は、家族はチームという考えで、家事も積極的にやります。雑ですけど子どものお弁当も作るし、『外で働いて、こんなに家事して~』ってブーブー言いながら掃除もマメにします。子育ても熱心で、スマホやテレビの制限時間なんかも、親子で意見を出し合って決定しています」
パックンの子育ての流儀は、ディスカッションだという。
「僕は子どもにたくさん質問します。昨日はサッカーのオフサイドのルールが何で必要かを聞いたの。そうすると子どもは考える。ディスカッションしながら正解に導いていくんです。世界の常識に挑戦する子どもに育てたいです」
とはいえ、子育てはままならないことも多い。長男は14歳、長女は12歳になり、思春期特有の難しさを感じることもあるという。
「息子と言い争いになって、僕がカーッとしたときは、『5分休憩!』って大声で叫んで、頭、冷やします。子どもが親を育てるっていうけど、すごい育てられてます。忍耐力や責任感もつきました」
そう話すと、しばらく沈黙して、静かに口を開く。
「それに、自分が親になって、初めて親の気持ちがわかりました。お母さんがどれだけ僕を愛しているかってことも。だから、電話で『ごめんね』ってあやまりました」
母親をアメリカに残したまま、長い歳月が流れていた。
「お母さんは再婚して、今は老後のコミュニティー、リタイアメントホームで暮らしています。僕の活躍をすごく喜んでるけど、ひとり息子が遠くにいて、さみしいのは間違いない。僕は自慢の息子だけど、親不孝な息子です」
もどかしさを抱えながらも、わが道を進み続ける。
自由に海外と行き来できるようになったら、家族で里帰りをする予定だ。