現代の“お母さん女優”大本命は

 現在も、多くの女優がお母さん役に挑戦している。ドラマウォッチャーとしても知られる漫画家のかなつ久美さんがお母さん女優として太鼓判を押したのは薬師丸ひろ子だった。

「『1リットルの涙』('05年 フジテレビ系)で娘を亡くす母を演じる薬師丸さんを見たとき、『こんないいお母さん役ができるんだ! 』と驚きました。映画『ALWAYS 三丁目の夕日』('05年)での母親役もそうでしたが、子どもを思う母の愛を表現させると本当にうまい。ふっくらしたルックスも手伝って、本当にいそうな理想のお母さんになっていたと思います」(かなつさん)

 では、出色な“お母さんもの”のドラマといえばどの作品になるだろう?  近年の秀作としてかなつさんが挙げたのは、松雪泰子主演『Mother』('10年 日本テレビ系)だった。松雪演じる小学校教師が両親に虐待される児童に気づき、その子を誘拐してMotherになる決意をする─。坂元裕二脚本の傑作だ。

「あの役は松雪さんが持つシャープな雰囲気にぴったりでした。彼女の表現するひと癖あるお母さん像は素晴らしかったです」(かなつさん)

 竹山さんも、脚本家の立場から『Mother』を絶賛する。

「あのドラマの松雪さんはよかったですね。坂元さんの表現もとても素晴らしかった。どちらかというと自分の愛情のおもむくままに子どもを抱きしめるタイプの母ではなく、“冷静な母親”がドラマでは描かれていました。コロナ禍は『帰省しなくていいから、無理しないで東京にいなさい』という時代。だから、ああいう感じこそが今なんですよね」(竹山さん)

お母さん役を断ってほしい!?

貫地谷しほりさん
貫地谷しほりさん

 さて、今後“お母さん女優”の系譜に入ってくる存在としてどんな女優がいるだろう?

 川上さんが女優の視点から挙げたのは貫地谷しほりだった。2人は『3人のシングルマザー』('20年 フジテレビ系)で母娘を演じており、シングルマザー役は貫地谷、川上さんは貫地谷の母親役で、なんとおばあちゃんの役でもあった。

「すごく落ち着いていて、母親役を演じるのにまったく違和感はなかったですよ。たくましさもあったし、しっくり来ていました。貫地谷さんはいいと思います」(川上さん)

綾瀬はるかさん
綾瀬はるかさん

 かなつさんが挙げた“お母さん女優”の有望株は2人。1人目は綾瀬はるかだ。

「綾瀬さんってルックスから母性があふれているじゃないですか。あと、ものすごくキレイなのにどこか庶民的なんです。家事をしながらたまにドジをしそうで、そこもいいんですよね(笑)。だから、40代になったら立派な“お母さん女優”になるかも。将来に期待です」(かなつさん)

 2人目は大島優子だ。

「大島さんも洗練されすぎない庶民的な雰囲気があるし、結婚もされたので、今後はお母さん役も増えそうですよね」(かなつさん)

 竹山さんは脚本家ならではのこんな見解を示してくれた。

「今、お母さん役でいいと思うのは薬師丸さんかな。でも、本当はもっと違った役をやったほうがいいと思うんです。彼女には、そこはかとない妖しさがあるから。だから、子どもの成長を微笑ましく見守る母親役があまり板についてほしくないなというのが正直なところですね」(竹山さん)

 竹山さんは、今の時代女優はお母さん役を定番にしないほうがいいと提言する。「『時間ですよ』('70年 TBS系)の森光子さんや『渡る世間は鬼ばかり』('90年 TBS系)の泉ピン子さんみたいに、今の時代ではその人の金看板になるわけではないし、もったいないと思うんです。今の女優さんたちは、年をとったからといって安易にアットホームな母親役を引き受けなくてもいいと思うんですよ。もっと自分を大事にして、『この母親役はできません』ってちゃんと言ってほしいです。

 綾瀬さんも、雰囲気を買われて庶民的な母親役をやってもいいと思うけど、可能性を広げるために『もっと違う役をやりたい』と毅然としてもいいと思います」(竹山さん)