隠された真実
「家族はまた深く傷つくと思いますが、どうかご支援の程宜しくお願いします」
ある日、受刑生活を送る雅樹から、筆者のもとに手紙が届いた。そこには雅樹が事件を起こすに至った経緯が綴られていた。母や姉は知らないほうがいいと思ってきたが、残された子どもたちのためにも真実を伝えて欲しいと姉に諭され、手紙を書くことを決意したのだという。
* * *
雅樹と妻の美沙(仮名・30代)は、交際を始めてまもなく、妊娠をきっかけに結婚した。
「子どもの世話で忙しいから、自分のことは自分でやってね」
雅樹が仕事を終えて家に帰ると、いつも美沙と息子は食事を済ませていた。休みの日でも家族で一緒に食事をすることはなく、雅樹はいつもひとりで外食をしていた。いつになっても自分の家という実感が持てず、パチンコや飲み屋に寄って深夜に帰宅する生活になっていたという。
それでも美沙は、友人の家族と一緒にキャンプに行ったり旅行することが好きで、家庭の外では仲よくできていたのだ。
ところが、美沙はふたり目の子どもを出産してから体調を崩すようになった。そのころから心配した雅樹の母親が、家事や子育てを手伝うために自宅に来るようになっていたが、
「クソババアまた余計なことして! あたしを馬鹿にしてる」
と、雅樹の母親が作り置きしていった料理を、美沙が投げつけることもあったという。美沙は料理が得意ではなく、母の気遣いを馬鹿にされたと感じ激怒したのだ。
「まずいし、貧乏くさい!こんなもん食べて、まともに育つわけないでしょうが!」
美沙はそう言いながら、次々とゴミ袋に流し込んでいった。雅樹は一瞬、怒りが込み上げたが、子どもたちがいたので喧嘩はすべきでないと感情を抑えた。雅樹は次第に、家庭のストレスからギャンブルにのめり込むようになっていく。
そんなある日の夜、雅樹の父親が急に倒れたという連絡が入る。
“あたしは関係ない”と言う美沙を置いて、雅樹はひとりで病院に向かうことになった。その日の明け方、父は息を引き取り、雅樹が帰宅すると、
「死んだ?ねえ、死んだの?」
「死んだんだ、よかったじゃん。寝たきりとかになったら面倒くさいよね」
笑いながらそう話す美沙に、雅樹は初めて殺意が湧いたという。それでも雅樹は美沙に感情をぶつけることはできなかった。