あのスペシャリストがやってのけた。
茨城県つくば市にある洞峰公園内の池で目撃情報が相次いでいた外来種の巨大ワニガメは10月18日午前10時07分ごろ、爬虫(はちゅう)類の専門家によって無事に捕獲された。
捕獲作戦を成功させたのは、今年5月に横浜市戸塚区で行方のわからなかった巨大アミメニシキヘビを捕まえたあの人、静岡県河津町にある国内最大の爬虫類・両生類の体感型動物園「iZoo(イズー)」の白輪剛史園長(52)。今月6、8、14日の捕獲作戦に続く4度目の挑戦で、池に潜んでいたワニガメを生け捕りにした。
ワニガメが水面に顔を出すと、池に入ってスタッフで取り囲んだ。白輪園長は「ワニガメが足に当たった」などと叫び、確保の瞬間、
「いた! 網に入った。押さえた」
と興奮を抑えきれない様子で叫び、そばで見守っていた公園関係者や来園客から「おーっ」などと歓声がわき起こった。
「水中で足にワニガメが触れても一瞬で消えてしまった。われわれが想像する以上に警戒心が強く、泳ぐのも速かった」
と白輪園長。
着手から捕獲まで約3時間40分かける丁寧な作戦だった。
真夜中に現地入りし、早朝6時からスタッフ8人態勢で捕獲準備に着手。白輪園長は事前に潜水用のドライスーツを着込み、双眼鏡などで池(正式名称=洞峰沼)にじっと目を凝らした。
午前7時37分ごろ、目撃多発ポイントであるブイ(浮き)につかまって顔を出したワニガメを確認すると、「あがった、あがった! いたね〜」と興奮ぎみに話し、水深約80センチの池にズブズブ入っていった。
周辺の半径数メートルを金網のフェンスで囲い、逃げる隙間をつくらないよう慎重に水中封鎖。池底に沈んでいた浮き島の土台となるネットの残骸十数個や流木などの障害物を取り除き、隠れる場所をひとつずつつぶしていった。
横浜市のアミメニシキヘビとは異なり、このワニガメの所有者はわかっていない。本来は米国南部の沼や川などに生息し、魚やカメの甲羅をバリバリ割って食べるほど顎の力が強いとされる。特撮映画「ガメラ」のモデルになるほど獰猛(どうもう)で最大100キロ超まで成長する。環境省と農林水産省は、生態系などに被害をおよぼすおそれのある「生態系被害防止外来種」に指定しており、現行法は愛がん目的のペットとして新たに飼うことを禁じている。
白輪園長によると、ワニガメのほうから人間を襲ってくることはないというが、うっかり手を出すと指を食いちぎられるほどのパワーがあるという。扱いに慣れている白輪園長は防刃手袋などを2枚重ねにした両手で持ち上げてみせ、
「ワニガメの夢ばかり見ていた。もうワニガメの夢は当分いいです」
と無事に捕まえられたことに安堵(あんど)した。
捕獲後に計測したところ、甲羅の長さは約55センチで推定20歳前後のオス。白輪園長によると推定体重約40キロで、おおむね80〜100年生きるワニガメとしては若い個体という。
目撃情報などが報道されて以降も、所有者から公園管理事務所に連絡はなく、ペットとして飼育されていた個体が捨てられた可能性が高まっている。
確保されたワニガメは今後、
「飼育許可を持っている茨城県内の施設でかわれることになります」
と白輪園長。
ワニガメを池に放したとみられる所有者に向け、
「マイクロチップも埋まっていなかったし、違法な状態で飼育していたのだろう。捨てる前に相談してほしかった。同じような状況にある人がいたら、これだけ大変なことになるので絶対に捨てないでほしい」
と呼びかけた。
洞峰公園の管理事務所によると、このワニガメをめぐっては9月22日以降、来園客らから目撃情報が相次いでいた。同事務所は子どもらが不用意に近づいてケガなどをしないよう立て看板で注意を呼びかけるとともに、地元の専門家に相談。池底に泥や枯れ葉などが堆積しているため居場所の特定が難しく、ヒモにくくりつけた鶏肉で釣り上げようとしたが失敗。最終的にヘビ捕獲劇で名をはせた白輪園長に捕獲を依頼していた。
白輪園長は4度にわたって現地入りした捕獲作戦がようやく成功した最大の要因について、
「周囲をフェンスで囲えたこと。フェンス内にとどめることができたのが大きい」
と話した。
このワニガメによるけが人などは確認されていない。トラブルを招く前に捕獲してみせた白輪園長は、捕獲を手こずらせたワニガメに笑顔を向け、「無事にきれいなかたちで捕まえられてよかった。長く飼ってもらえるといいね」とつぶやいた。
◎取材・文/渡辺高嗣(フリージャーナリスト)
〈PROFILE〉法曹界の専門紙『法律新聞』記者を経て、夕刊紙『内外タイムス』報道部で事件、政治、行政、流行などを取材。2010年2月より『週刊女性』で社会分野担当記者として取材・執筆する。ウェブ版の『週刊女性PRIME』『fumufumu news』でも記事を担当