橋幸夫の金銭トラブルと組織票疑惑
ただ、商魂がたくましすぎたのか、金銭トラブルにも巻き込まれた。佐川急便の会長と仲がよかったことから、その出資で設立されたレコード会社・リバスター音産の副社長に就任。しかし、1984年にデビューしたアイドルグループ『セイントフォー』の所属事務所と、このリバスター音産がもめてしまう。
事務所側が橋を横領で訴えると会見したのだ。橋はこのグループのメンバーとも1、2回しか会っておらず、いわばお飾り的重役だったが、敵視されたことに激怒。これをメディアが面白おかしく書き立てた。
ちなみに、リバスターについては佐川急便の裏金工作のための会社だという報道もされた。やがて、政界を揺るがした汚職スキャンダル・東京佐川急便事件により、解散してしまう。
本業では、2005年の『スキウタ』騒動というのもあった。「紅白」が実施したアンケートで橋の曲が上位にランクされたものの、組織票疑惑がささやかれ、結局落選。橋は「もう2度と出ない」とコメントした。
そのかわり、最近は夢グループと連携してコンサートをやっている。素人っぽいCMで絶好調のあの通販会社と組んだのだ。
そして何より、橋の元気を世に知らしめたのが'18年の再婚だ。その2か月前に、同世代の妻と熟年離婚をしたと思ったら、50代の年下女性と2度目の結婚。今回の引退宣言も、このパターンなのではと勘ぐってしまう。
すなわち、枯れたと見せかけて、健在ぶりをアピールするという戦略だ。実際、このラストツアーが大人気となれば、来年の紅白だって夢ではない。歌手引退後に時代劇、という話にしても、主題歌のオファーがあれば、そのときの調子次第で引き受けそうな気もするのだ。
PROFILE●宝泉薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。