捕獲することは難しい
「キョンはおとなしく警戒心が強いので自然の少しの変化も敏感に感じ取ります。罠を仕掛けるのも細心の注意が必要です。腕利きのハンターでも簡単に捕獲することはできません。県や国は“根絶しろ”と訴えていますが厳しい。私たちの猟友会でも増加を止めるための数すら捕れていないのですから」
キョンは現在、市原市などにまで北上、17市町村での分布が確認されている。東京や茨城では迷い込んだとみられる個体も確認されている。
「ストレスで死ぬほどにか弱い動物なので、リスクを冒して東京や埼玉で定着することはないでしょう。攻撃もしてこないんですから」(以下、石川さん)
人間に危害を加えないなら共存する道があるのではないだろうか。
「個体数は管理調整したほうがいいとは思いますが、捕まえて殺して捨てるだけなんて誰もやりたくないですよ。本当に根絶しないといけないのかって思いました。ただ殺すんじゃなくて、動物の価値を高めればいいと思って調べ、活用の道を模索しました」
殺さず活用の道へ
調べると非常に高価な動物であることがわかった。
1つは皮。剣道の防具や小手などに使われている最高級品はキョンの革を使っている。非常に滑らかでニホンジカよりも3倍の強度がある。その使用の歴史は古く、卑弥呼の時代まで遡る。
キョンの革を油でなめしたセーム革は金属や宝石を磨くだけでなく、こするだけで肌がつるつるになることから肌ケアにも最適だ。
シカ革を使った女性に人気の伝統工芸品の『印伝』の展開にも可能性を秘める。
2つ目は食肉。
「キョンの肉は台湾では末端価格で100g3000円くらいの超高級食材。味はあっさりとしていてクセがない。高タンパク低脂質。それにビタミンBが豊富です。日本では駆除対象獣で厄介者ですが、台湾では特定保護動物なんです」
角は精力剤として高級漢方として処方されてきた。
キョンは捕獲され、殺されるときに赤ちゃんのような声で鳴き叫ぶのだという。