青葉被告は犯行の動機として京アニに「小説を盗まれた」と主張している。再度の精神鑑定により無罪となる可能性は低いだろうが、刑の量定には被告の生い立ちや境遇などの実情が関わってくるのかもしれない。
作中のセリフとの“リンク”
「青葉被告は’78年、現・さいたま市に3人きょうだいの次男として生まれ、幼い頃に両親が離婚し、父と兄と妹の4人暮らしとなりました。定時制高校卒業後には非正規の仕事を転々とするも’99年に父親が自殺し、一家は離散。仲がよかった父親の他界で歯車が狂い出したのか、それからはトラブル続きに。
‘06年には下着泥棒で逮捕されるも執行猶予がつきましたが、’12年にはコンビニ強盗により逮捕されて実刑判決を受けています。出所後もたびたび騒音や器物損壊の問題を起こしており、‘17年には精神障害と診断されました。まだ何とも言えませんが、精神鑑定の結果によっては、刑の量定に影響する可能性があります」(同・前)
「どうせ死刑になることは分かっている」
最初の事情聴取で被告が口にした言葉だが、事件で負った傷がだいぶ回復してからは、懸命に治療を続けた医療スタッフに対し丁寧に敬語を用い、感謝の意を述べたという。
「他人の自分を全力で治そうとする人がいるとは思わなかった」
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の主人公・ヴァイオレットの美しい心の成長と同一視するわけではないが、過酷な境遇で心を閉ざし、人の道を外れてしまった被告もまた、人の愛に触れることで“心”を知ったのだろう。
作中では「燃えている」「やけど」といったキーワードも多用されているのだが、中にはこんなセリフが登場する。
「境遇がどうであれ、経緯や理由が何であれ、してきたことは消せない。忘れることもできないだろう。燃えているのはあの子だけじゃない。俺や君だって、表面上は消えたように見えるやけどの痕もずっと残ってる」
事件前に発表された作品であるが、このセリフは事件により残された人々に向けられているようにも、青葉被告に向けられているようにも聞こえてくる。
行き着く先がたとえ極刑だとしても、青葉被告には真摯に被害者と遺族、医療スタッフや京アニファンの心に向き合い、一生をかけて罪を償って欲しい。
取材・文 久遠 凛