遠矢医師が診察した18人の重症度内訳は軽症が28%、中等症Iが17%、中等症IIが55%。実に7割以上は本来ならばすでに入院していてしかるべき患者だった。しかも、3割弱の軽症者もかなりハードな状況だったという。遠矢医師は次のように語る。
「軽症と中等症の線引きは、呼吸の苦しさがあるか否か。私が診察した20~30代の軽症者の中には、呼吸の苦しさはないものの、39~40度の熱が1週間も続いた人もいました。食事もとれず脱水症状があり、動けずにげっそりした状態です。
何も知らない人が見たら、死にかかっていると思うでしょう。『軽症』と聞いて多くの人が想像する軽度の風邪のような症状とはかなり深刻度が異なるのです」
潜在的な糖尿病の人も中等症以上に!?
遠矢医師によると、中等症以上に進行する人は、従来から指摘されているように何らかの持病(基礎疾患)を持っている人が多いという。
「例えば糖尿病や腎臓病、あるいは心臓や肺の病気がある、若い人でぜんそく持ちなどです。また、ひとつ特徴的だったのは、糖尿病と診断されたことはない小太りの若い感染者で、念のため血液検査をすると、血糖値が高い潜在的な糖尿病の人が散見されたことです」
一方で新型コロナが厄介なのは、一部の感染者では肺炎が緩やかな速度で進行したため、重度の呼吸不全状態にもかかわらず、本人はまったく自覚がない『ハッピー・ハイポキシア(幸せな低酸素症)』に至っているケースがしばしばあることだ。
「人間の臓器は血中から酸素が供給されることで機能しているため、SpO2が90%を下回ると心臓や腎臓などにダメージが及ぶというのが医学の常識です。ところが往診した患者でSpO2を測定すると、88%と日常的にはありえない、驚くような数値となる人が結構いるのです。
この状態はかなり危険なのですが、本人は“別に苦しくないけど、言われてみればトイレに行くと、少し息がハアハアするかもしれない”と言うだけ。これがまさにハッピー・ハイポキシアの怖さです」(遠矢医師、以下同)
こうした自宅療養者への往診でできる治療は、脱水症状に対する点滴による輸液、SpO2が低下例への酸素吸入と肺炎を抑えるための経口のステロイド薬の処方など。だが、時にはこれらの治療すら難航したという。
「東京都特有の現象なのでしょうが、お盆前後の感染者発生ピーク時には酸素吸入用の酸素濃縮器やステロイド薬が不足しました。私もある時に1日3件の往診依頼があり、診断の結果、すべての患者で酸素吸入が必要だったにもかかわらず、酸素濃縮器を調達できたのは1件目のみ。
2件目以降は酸素濃縮器を供給できる都内の約10社に順番に電話をしましたが、どこも在庫なし。東京都が独自で約500台の酸素濃縮器を確保していると聞いていたので、そちらにも連絡をとりましたが、そこでも在庫が尽きていました」
結局、残る2人の患者には「なんとか頑張ってください」と言うしかなく、非常に申し訳ない気持ちでいっぱいになったという。遠矢医師は現時点ではやはり新型コロナの自宅療養はなるべく避けるべきとの考えだ。