「感染症専門医によると、新型コロナは適切な時期に承認ずみの抗ウイルス薬などで治療を開始すれば、死亡リスクをかなり回避できるようになっています

 しかし、これらの治療は現在、コロナ病床がある病院でしか行えません。その意味から中等症以上では入院が最も望ましいのですが、第5波では入院できずに治療タイミングを逃した結果、死亡した不幸な事例も報告されています。

 率直に言って、私たちが行った自宅療養者への酸素吸入やステロイド薬の処方は、入院までの時間稼ぎにすぎず、本質的治療とは言い難いのです」

第6波の備えは?

 また、自宅療養をなるべく避けるべきもうひとつの理由が家族内感染の防止のためだ。遠矢医師が回診、往診した事例でも7割で家庭内感染が発生していたという。

「そもそも自宅内にいればトイレや風呂の共用は必然となりますから、完全な隔離状態をつくるのは難しい

 特に住居が狭めの都市部では隔離は無理な話です。結局、家庭内感染が必発となって無用に感染者を増やし、医療や行政の現場を逼迫させてしまいます」

 もっとも遠矢医師は「日本はコロナ病床が少なすぎるという声もありますが、そもそも対応できる人材を簡単に増やせないのですから、病床を急に増やすことはできないのは当然」と語り、新型コロナ病床のさらなる確保は容易ではない現実に理解を示す。

 では第6波にどのように備えればいいのか? 遠矢医師は、まず望むのが現在コロナ病床のある病院にほぼ限定されている抗ウイルス薬の使用を、在宅医療など幅広い医療現場で使えるようにすること。そして、もうひとつが回復期にある感染者の転院先となる病床の確保だと話す。

「中等症以上で入院した人も適切な治療が行えれば、悪化のピークを無事に超え、本人もある程度動けるようになります。

 ところがそうした回復が確定的な人がコロナ病床に入院したままなため、今まさに悪化しつつある人が入院できないという事例もあるのです。地域の医療機関がこうした回復期の人の転院先になるといった役割分担も必要だと思います」

 一方で私たち自身もできることは、ワクチン接種だ。

「往診先では同居家族がいると、家庭内感染でみなバタバタ倒れるのですが、その中で無事な人に共通していたのがワクチン接種ずみという点。ワクチンが守ってくれるのだと、肌でも感じました」

 これからくるかもしれない第6波まで残された時間はそれほど多くない。いま私たちに求められているのはこうした現場の声を、それぞれの立場でどれだけ身をもって対策に結びつけるかだろう。

10月28日時点、国内のワクチン接種で2回目まで終えた接種率は70%以上に
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【写真】自宅療養中の男性、チューブをつけ酸素飽和度を測定している様子
お話を聞いたのは……遠矢純一郎医師(とおや・じゅんいちろう)●桜新町アーバンクリニック院長。総合内科専門医、日本在宅医学会指導医。

(取材・文/村上和巳)