変わりつつあるハリウッドの日本人像
外的要因によって、日本が取り上げられる─。その意味では、サブカルチャーは最たる例と話す。
「'00年代後半くらいから、ハリウッドはネタが枯渇し始めます。オリジナル脚本で新しい作品をゼロから作るとなるとリスクが高い。そうなるとシリーズものを続けることが、もっとも効率的。
そういった状況下では、すでに固定ファンもいて、採算が取りやすいだろうサブカルチャーとの相性がいい。日本のゴジラを題材としたり、人気ゲーム『バイオハザード』が映画化されたりと、'00年代後半から顕著になります」
『HEROES/ヒーローズ』や『硫黄島からの手紙』などの恩恵を受け、変わりつつあるハリウッドの日本人像。しかし、松崎さんは「まだまだですよ」と苦笑する。
「2015年公開のAmazon配信のドラマ『高い城の男』に出演した際、空手の道場というセットに飾られていた掛け軸には、なぜか“ハブ薬局”と書かれてあった。これはフィリップ・K・ディック原作の歴史改変SFドラマであり、コメディーではないので、まったく意味不明でした(笑)。制作サイドは、そもそも日本語の意味なんて気にしていないんです」
これで許されてきた原因を、松崎さんはこう語る。
「まず、日本人が抗議の意を示さないことです。あるハリウッドの大物プロデューサーが、中国に配慮した表現をすると話していたので、『でも、あなたがプロデュースした作品の中には、日本兵を悪く描いたものもありましたよね?』と聞いてみた。
すると、彼は『だって、日本人は怒らないだろ。中国人や韓国人は、自分たちが気に食わない表現に対し烈火のごとく怒るし、すぐストライキをする』と顔色ひとつ変えずに話した」
そして、もうひとつ。
「日本自体が海外に対して、いまだにサムライや着物、直毛で黒髪……といった、あなたたちが好きなのって、こういった日本像でしょ─というものを提示しすぎるがあまり、ハリウッドも『やっぱりそうなんだ』となってしまう」(松崎さん、以下同)。
「ハリウッドに迎合するのではなく、こちら側から今の日本ってこうなんですよという新しいものを提示していかなければ、日本人像は広がっていかない。例えば、韓国はBTSを通じて、新しい韓国人像というものがアメリカに広がっています」
日本側から“攻め”の姿勢がなければいけない。前出のよしひろさんも、「日本は受け身すぎる」と同調する。
「ハリウッドは、たまたま話題になっているから日本を取り上げているだけ。日本側から何かをしているわけではない。しかも、日本に関心があるだけでも御の字なのに、日本でロケを行うのはとても難しい。
『MINAMATA』もそうでしたが、日本を題材とした大作のロケ地は大半が日本以外の場所にセットを作っているし、世界的な観光名所ともいえる渋谷のスクランブル交差点での撮影は、国内外を含め映画のロケの許可が下りたことがない。こういった内向きな姿勢が続くことも問題でしょう」(よしひろさん)