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現在、日本における新型コロナウイルスのワクチン接種数は1億9,500(11月19日時点)。それに伴って、感染を防ぐ免疫とされる『中和抗体』が体内にどれだけ残っているかを測定する“検査キット”が、冒頭のような謳い文句を使い多数売り出されている。
簡単に、安く、そして正確だというこれらの検査キット。基本的にどれも指先から血液を採取し、検査キットにそれを入れることで抗体が残っているか測れるというものだ。
ここ数年における人類最大の“敵”であるウイルスに関する検査が、それほど手軽にできるものなのか……。
アメリカでは「抗体なんか測るな」との声も
「結論から言うと、まったく無意味な検査ですね」
そう話すのは、新潟大学名誉教授で医療統計の第一人者と呼ばれる医学博士の岡田正彦先生。そもそも“中和抗体”とはいったいなんなのか?
「ものすごく簡単に言うと、ウイルスの細胞への侵入をブロックし、感染を防いでくれる抗体となります」(岡田先生、以下同)
現在開発されている新型コロナウイルスに対するワクチンは、接種すると細胞内で“スパイクタンパク質”が作られ、その後免疫の仕組みが働き、ウイルスを攻撃する抗体を作るように促す、というものだ。
「最近、“どんな種類の抗体が新型コロナの感染をブロックしているのか”という研究が行われ、そこでスパイクタンパク以外にも侵入を阻止するという抗体が見つかりました。
つまりひと言に“中和抗体”と言ってもさまざまにバラエティーがあるということ。だからこそ簡単に10数分でできるような検査キット、インターネットで買ってできるような検査方法で、それが測れているのか。そもそも何をもって中和抗体と言っているのかもわからない。
さらに重大なことは、それで測った数値が“いくつ以上ならば”免疫で守られているのか、“いくつ以下”ならばダメなのかという基準、エビデンスが一切ない。それがない限りは、仮に正確に測れたところで意味がない。数値基準がない理由は、抗体の量は測ることがとても難しいこと、それぞれ研究者によって測り方が違ったり、また測り方によって誤差もものすごく大きいこと。
そもそもこういった中和抗体の検査は、あくまでバイオの専門研究を行なっている人が研究室でやれるようなレベルのものです。つまり、“簡単に測れる”と言っている時点で、それは“ウソ”。これらの検査キットを“画期的な検査”などと報じるニュース番組を見ましたが、ありえませんね」
さらに人間の身体を守っているのは抗体だけではないという。
「人間の免疫システムは非常に複雑です。免疫ができる過程で、まず“異物”と認識する細胞があります。その情報を受け取り“記憶する細胞”があり、適宜抗体を作る細胞に情報を渡して、さらに別の細胞が抗体を作ります。人間の免疫システムには、抗体だけでなく、この『記憶細胞』もかかわっています。
わかりやすい例で言うと『はしか』。はしかは一度かかると生涯免疫が付くと言われてきました。異物と認識した“記憶細胞”に、しっかりとはしかのウイルスの異物構造が記憶されて残っているためなのですが、ただし最近、その記憶も次第に消えていくことがわかってきました。
新型コロナの感染についても当然ながらこの記憶細胞がかかわっているでしょう。そのため抗体がないからダメだとか、逆に抗体が残っているから安全だという話でもありません」
抗体を測ることは無意味どころか……。
「アメリカでは、1年ほど前から研究者や公的機関が盛んに“抗体なんか測るな”とアナウンスしていました。測るなというのは、間違いが起こるからです。
間違いとは、“抗体があるから”と安心し、コロナに対する警戒が緩み、マスクを外してしまったりといったことです。このような検査は無意味ならまだいいのです。無意味どころか根拠のない数字によって感染予防を怠る人が出てくる恐れがあり、危険だと思いますし、アメリカを中心に多くの専門家もそう言い続けています」
岡田先生によれば、このような検査を非難する論文は医学専門誌に掲載され、そのタイトルは『The flawed science of antibody testing for SARS-CoV-2 immunity』、日本語訳で『抗体検査はインチキ科学』だったという。
それでもあなたは抗体を測りますか?