「血管や心臓の病気は、加齢により発症する可能性が高まります。特に60代以降は重大な健康リスクが懸念されるため、適切な予防と管理が重要になります」
そう説くのは2012年に上皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した、心臓血管外科医の天野篤先生。その言葉どおり2022年の厚生労働省の調査によると、日本人の死因第2位に心疾患、第4位に脳血管疾患が挙げられ、今や、がんに次ぐ身近な病気になっている。
食事改善で良質な脂質を意識
「狭心症、心筋梗塞、大動脈瘤(りゅう)、大動脈解離といった心臓疾患や脳梗塞には、動脈硬化が深く関係しています。そして動脈硬化を招く大きな要因は、長年の生活習慣。血管や心臓を守るには、食事と運動の改善が必須です」
脂質、つまり食事で摂取する油の質が心疾患に関連するといわれている。脂質は飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられる。
飽和脂肪酸はバターなどの乳製品や肉、ラードなどの動物性脂肪、ココナツ油などの熱帯性植物油脂に多く含まれる。不飽和脂肪酸はオリーブオイルや菜種油などの一価不飽和脂肪酸と、植物油や青魚などに多く含まれる多価不飽和脂肪酸に区別される。
「アメリカの研究では、飽和脂肪酸の摂取量を5%減らし、その分のカロリーをオメガ6系の植物油や多価不飽和脂肪酸に置き換えると、心臓疾患の発症リスクが25%減少したそう。置き換えるものを一価不飽和脂肪酸にした場合は15%減少、精製されていない玄米や雑穀などの全粒穀物でも9%減少しています」

飽和脂肪酸は動脈硬化の原因になるLDLコレステロール、つまり悪玉コレステロールを増加させる一方で、多価不飽和脂肪酸はそれらを減らして動脈硬化や血栓を防ぎ、血圧を低下させる。
さらに不飽和脂肪酸のひとつであるオメガ3系脂肪酸は、血糖値を正常範囲に戻すために過剰なインスリンを必要とする状態の“インスリン抵抗性”を改善。オメガ3系脂肪酸から生成される脂肪酸代謝物により、心臓の炎症や線維化が抑制されることも判明した。
とはいえ飽和脂肪酸が少なすぎても脳卒中のリスクが高まるので、バランスよく脂質をとることが理想だ。