あの香川照之さんが「これだけちゃんと王道を歩いてくるのって素晴らしい」と称賛したように、やりたいことや自分らしさを優先して出演作を選ぶのではなく、「求められる仕事に向き合っていく」という姿勢で、大役を引き寄せるベースを作っていきました。「ルパン三世」を演じる際は大幅な減量が必要になるなど、それぞれの役作りが難しく、プレッシャーが大きかったのは間違いありません。

コメントも演技も嘘がない信頼感

「日本沈没」に話を戻すと、同作は危機的状況をモチーフにしているものの、実際のテーマは、「信じられるリーダーはいるか」。小栗さん演じる天海啓示は環境省の官僚でありながら、自分の立場を超えて政治家の間違いを正し、他省の官僚たちを引っ張り、国民を救うために身を粉にして奮闘。視聴者が「実際はいないだろうけど、現実にもこんなリーダーがいてほしい」と思うファンタジーとリアルの間をゆく人物を演じています。

 小栗さんはオファーをもらったときの心境について、「“覚悟”のいる作品だなと思いました」。災害をテーマにした作品について、「なかなかデリケートな内容」「どんなものが希望なのか。なかなか絶望しかない」などと難しさを語っていました。

 災害がテーマのデリケートな作品で、現実には存在しない信じられるリーダー像を体現する。そんな2つの難しさがありながらも小栗さんは、「今みんなが苦しい環境の中で、この題材は非常に難しいお話なんですけど、その中でも希望と人間の強さみたいなものを届けられるように真摯に作品に向かっていきたい」とコメントしていました。「人々がコロナ禍や度重なる自然災害に悩まされているときだからこそ演じる意味がある」と言いたかったのではないでしょうか。

 小栗さんはしばしば一俳優という立場を超えて、業界や俳優全体を考えたコメントをするなど、広い視野を感じさせることがありました。だからこそ、「今回のようなリーダーを演じられるのは小栗旬しかいない」と思わせられたのでしょう。

 また、小栗さんは前述した「情熱大陸」に出演したとき、「ダメだ俺……」と悩む弱気な姿、乱暴な言葉づかい、タバコを吸う姿、携帯電話を叩きつけて壊したことなどを公開して視聴者を驚かせました。しかし、このとき以降、多くの人々は「小栗旬は正直な人で嘘をつかない」というイメージを抱いたのです。