「私のクリニックに来院される患者さんも“自分は問題ないと思うが、家族が診てもらえと言うから来た”という人が多いです。ご本人は、もの忘れや失敗が増えて不安を感じてはいても、それを認めたくない気持ちが強い。周囲が気づいてあげることが早期発見には必要です」
とはいえ、高齢の親と別居している場合、またコロナなどで実家と行き来しづらい状況では気づくのが難しいこともある。
「その場合は親のかかりつけ医に思いあたる変化がないか、聞いてみてもいいでしょう。実際に、同じようなリストを医師に配布して、病院での早期発見を促す活動も行われています」
「脳の予備能力」が働いてMCI改善
ではなぜ、MCIの段階なら認知機能の改善は可能なのか。認知症にはいくつかのタイプがあるが、3分の2を占めるアルツハイマー型認知症は、アミロイドβなどの老廃物が脳に蓄積することが原因。
血管性認知症は脳梗塞や脳出血によって、レビー小体型認知症は、αシヌクレインという物質が神経に蓄積して発症する。
タイプによって主要な原因は異なるが、共通しているのは脳の神経細胞が死んでしまうために、認知機能の低下が見られることだ。
「残念ながら、一度失われてしまった脳の神経細胞を復活させることは、現在の医療では不可能です。でも残った神経細胞が、頑張って失われた機能を補ったり、新しい神経細胞を作る仕組みが脳には備わっています。
MCIでは、このような“脳の予備能力”が比較的多く残されているので、認知機能の改善が期待できるのです」
計算ドリルでは予防できない
認知症予防の第2のポイントは、MCI改善のためには、どんな対策がよいかということ。朝田先生は「実は脳トレのしかたを間違えている人が多い」と話す。
「さまざまな脳トレが出まわっていますが、計算ドリルや、知識を問うクイズのようなものは、いくら点数を上げようと頑張っても、認知機能の改善には結びつきません」
WHO(世界保健機関)の認知症予防ガイドラインでも認知トレーニングによる認知症予防効果は、エビデンスが明らかではないとされているそうだ。
「予防効果が広く認められているのは運動。身体を動かすと神経の成長を促す物質の分泌が増えることもわかっています」