「SAYAKA」としても確実に残した美しい歌声

 ひょんなことから、デビュー曲の『ever since』が注目されたことがある。'18年5月『水曜日のダウンタウン』(TBS系)でのことだ。

「曲のサビでちょうど涙は難しい説 第2弾」という企画で、元NMB48の須藤凛々花が『ever since』を歌った。

 須藤は前年に行われた第9回AKB48選抜総選挙で「結婚宣言」をして物議をかもしたことで知られる。アンチも多い人なので、ネットでは須藤をディスる声も目立ったが、それとは別に、

「この曲、好きだった」 「ドラマの主題歌だよね」 「作曲はブリグリの人」 「やっぱ、いい曲」 「神田沙也加で聴きたいな」

 といった懐かしむ声もあふれたのだ。それは「神田沙也加」が「SAYAKA」としても、人々の心に確かな感動をもたらしていたことの証しでもあった。

 なお、もともと「声優になりたかった」という彼女は、アニメにも積極的に出演。今年放送された『IDOLY PRIDE』(TOKYO MXほか)ではアイドル・長瀬麻奈を演じた。

「グループが主流となったアイドル界に、彗星の如く現れたソロアイドル」(『IDOLY PRIDE』公式サイトより)

神田沙也加さんが演じたアイドル・長瀬麻奈の紹介ページ(『IDOLYPRIDE』公式サイトより)
神田沙也加さんが演じたアイドル・長瀬麻奈の紹介ページ(『IDOLYPRIDE』公式サイトより)
【写真】母・松田聖子と神田沙也加さんの運動会での貴重な姿

 ということで、完璧なルックスとキャラ、パフォーマンスにより人気を得るが、交通事故のため、19歳で急死。幽霊となって、後輩たちを見守るという役柄だ。

 麻奈の持ち歌として流れる挿入歌では、ミュージカルでの歌唱とはまた違う、アイドル的な歌唱を聴くことができ、彼女の才能の幅広さがわかる。

 思えば「SAYAKA」という存在自体、ハロプロとAKBというグループアイドルの2大ブームのあいだで、ソロアイドルの可能性をもう一度試すような役割を担っていた。その挫折もあって、グループアイドル全盛への流れはさらに加速していく。ある意味、母・聖子が大きく開花させたソロアイドルという文化の最後を娘の彼女が締めくくったともいえる。

『ever since』でデビューする際、彼女はこう語った。

「イントロが流れ出した瞬間、感動とうれしさで体が熱くなり、鳥肌が立ちました」

 期待に応え、夢をかなえようとしてもがいた10代の4年間もまた、彼女にはかけがえのない時間だっただろう。

「アナ雪」やミュージカルのレパートリーはもとより、若き日の神田さんが自身の葛藤を詞に託した「SAYAKA」の歌も長く聴き継がれることを願ってやまない。

PROFILE●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。