50歳と43歳のお笑いコンビ・錦鯉がM-1グランプリ優勝を飾ったことで、が然注目を集める“おじさん芸人”。
'20年の同大会では40代同士のコンビ・おいでやすこがが準優勝、'16年にはR-1グランプリでハリウッドザコシショウが当時42歳で優勝を飾るなど、遅咲きながら華々しい活躍をみせる芸人たちが目立つ。
「千鳥やチョコレートプラネット、ダイアン、シソンヌ、それからかまいたちにニューヨークなど、現在のテレビ界でひっぱりだこの顔ぶれも、それぞれもともと評価は高く一定の人気もありましたが、現在のようなお茶の間の人気者になるまでには時間はかかりました」
と、ある芸能ジャーナリストは言う。最近はチャンス大城もにわかに注目を集めており、第7世代の若手芸人たちもひととおり登場した反動もあるのか、キャリアを重ねた芸人が注目を集めるケースがじわじわと増えてきてる印象だ。
おじさん芸人が見つけてもらえない理由
それにしても、なぜ実力はあっても“おじさん芸人”たちはなかなか見つかりづらく、遅咲きになるのだろうか。ある放送作家は、大阪と東京の土壌の違いをまず指摘する。
「大阪には、どんどん新しい面白い人が出てきては売れていくという土壌がありますが、東京や全国区の場合は、人気者イコール面白いと捉えられることが多い。ネタの面白さ以外に、武器となる趣味や特技、または“M-1で優勝”みたいな肩書きのようなものがあってようやく出られますし、見ている視聴者も、そこを優先して見る一面があります。それが“見つからない”結果なのかもしれません」
しかし昨今、そんな東京キー局側の番組のつくりや視聴者側にも変化がみられるようになってきたと、前出の放送作家は言う。
「例えば『アメトーーク』などで、売れている芸人がたくさん出る番組で、『○○は面白いのになぜハマらないのか』と、知名度の低い芸人を取り上げ紹介するスタイルが定着してきました。面白いのに売れていないベテラン、中堅のおじさん芸人を、人気ある売れっ子芸人たちが面白がっている。そういう姿を見せることで、世の中が(面白さに)“気付く”ということはありますね」
有吉弘行やマツコ・デラックス、ダウンタウンの松本人志ら影響力のある人が評価することによって、彼らが認めた「おもしろい芸人」という“肩書き”になるパターンもある。
また芸人を中心とした番組の“空気”にも変化が起きている。これまではスベると全体が冷たい空気になることが多く、それを笑いにしてきた。しかし今は、奇抜すぎてスベるようなことをやる人がいても、そこを面白い方向に突っ込んだりリアクションしてくれる、“あたたかな空気”が生まれているという。
「番組の中心にいる芸人さんたちが、同期や同世代のテレビ慣れしていない芸人がスベりそうになると、しっかりフォローしてくれるんです。『さんまのお笑い向上委員会』のように、さんまさんという絶対的な存在が一番上にいて、ベテランのまわしやフォローのうまい芸人たちがアングラ芸人のような特殊な存在を、うまく生かしている番組もあります」(同前)
そのようにして見つかった“遅咲き芸人”や“おじさん芸人”たちは、世の中の空気にハマると、急に出てきた若手芸人よりも強いという。
「若手はまだトークが未熟で盛り上がらないこともある。でもベテランはやはりベテランだけあってエピソードもたくさん持っているので、トークはうまいんですよね」(同前)
あたたかな時代の空気の中で、新たに「見つかる」未知のおじさん芸人は、まだまだたくさん埋もれているはずだ。
〈取材・文/渋谷恭太郎〉