――なぜ不妊の原因が男性側にもある、ということが広まらないのでしょうか。
ほとんどの男性は自分の精子に疑いがないんじゃないですかね。射精してまさかそこに精子が入っていないとは思わない。厳密にいうと、精液と精子は違いますが、それすら気づいてない人が多いんじゃないかと思います。もしかして「自分が原因かも」と疑う人がいたら天才じゃないですか。
「命が生まれることは当たり前ではない」
――妊娠、堕胎、不妊治療、精子バンクなど、従来女性目線で描かれがちなテーマが、全編を通して男性目線で描かれています。真宮が作中で撮るドキュメンタリーも、関わる人物も、エピソードも、すべてが男性主体でした。例えば、作中の堕胎のシーンでは、彼女に付き添った真宮に向かって、医師が堕胎の方法を説明し、真宮がどう受け止め、どう行動し、それがその後の人生にどう影響を与えていくかが描かれています。
今回の物語で人の命が生まれるということが当たり前ではないということも描きたかった。もちろん、女の人にもドラマはありますが、それは誰かがもう書いています。男性に対して堕胎の現実を突きつける医者の話だってあっていいはずです。
僕も妻が流産をして、その時に流産した後に手術が必要なんだと初めて知った。しかも、流産と堕胎の手術は基本的に一緒なんですよね。でも、そういうことや手術の方法を知らない男の人が結構いるんじゃないかと思います。
みんな幸せに生まれてくるわけじゃない。でも、命ができる、生まれる、授かることに対してのたくさんの奇跡と、そこに対して自分たちが素通りしていることを、男性不妊を主軸にしながら、男性目線で突きつけました。
――医療としての男性不妊治療の描写も極めてリアルです。作中では一太が診断された非閉塞性無精子症の現実と、泌尿器科医が奇跡を求めて行う手術まで丹念に描かれています。
僕らが妊活したのは10年前ですが、不妊治療って日々すごい進化をしている。だからこそ情報は適当でありたくないというのがすごくあり、医療監修の先生にも入ってもらいました。また、怪しい治療や人もいるからこそ、正確な情報を伝えたかったというのもある。
男性は情報交換を本当にしないんです。女性はネットの中だとしても、誰かと繋がって、病院や治療の情報交換をしたりするじゃないですか。例えば、体外受精するならどこの病院がいいとか。
だけど、男性は痛さもないし、どこで検査しても同じと思っているのかもしれない。何より、自分の精子に対して疑いがないっていうのがまず大前提。次に自分に精子がないと言われた時に、自分に能力がないと言われたように感じてしまい、それがすごく恥ずかしいことで、言いにくいというのがあるんですよね。