ホームページに見られる杉並区の扶養照会への誤解

 議会答弁で保健福祉部長は、荻窪事務所の対応はあくまで厚労省の指導に則った適切な対応であり、自分たちは個々の要保護者の気持ちに寄り添っていると述べている。

 本当にそうだろうか?

 次は杉並区のホームページの「生活援助」の中の「よくある質問」のページである。(2022年3月6日現在)

Q 保護を受けるための要件はありますか。
 
 保護を受ける前提として、以下のような努力をしていただきます。
1.働ける人は能力に応じて働いてください。
2.貯金や生命保険など活用できるものは生活費に活用してください。
3.親・きょうだい・子どもなど扶養義務者からできる限りの援助を受けるようにしてください。
4.年金や手当など他の法律や制度で受けられるものは全て受けてください。

 国は、扶養照会の位置づけを「保護に優先されるもの」としており、「要件」とも「前提」とも定めていない。どうしてもしなくてはならないものではないのだ。でも、杉並区のホームページにはしっかり書いてある。法律違反である。

 2月4日の要望書提出時には支援団体が、そして、16日の区議会一般質問ではひわき区議がホームページの記載を指摘しているが、保健福祉部長は「ともすると、保護の要件であると誤解を与える可能性もあるため、今後わかりやすい表現となるよう工夫してまいります」と回答しながら、3月7日現在、未だに修正はされていない。

一区民、尊厳を賭けた区長への手紙

 謝罪もしない、話し合いもしない、間違えていないから改善もしない、当事者の言い分は全部ウソである、その指摘には当たらない。こんな杉並区の対応では埒が明かない。

 おかしいことに「おかしい」と声を上げる区民や、支援団体を敵とみなしているかのような公務員の態度は問題だ。話し合いの場すら設けるつもりがない福祉事務所相手に万策尽きた高木さんは、ついに区長宛に手紙を書いた。

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杉並区長への手紙

 本年2月16日に喜多川保健福祉部長が区議会において答弁した内容を知り、たいへん驚きました。

 昨年7月、私は、厚労省の通知に基づいて作成された意思表示の行使として「扶養照会に関する申出書」の公的な書面(※)を提出しようとしましたが、申請時に相談担当職員とケースワーカーから強圧的に拒まれたことは事実です。また、その後も、拒否の意志表示を口頭で何度もお伝えしましたが、扶養照会を強行されたことも事実です。

 また、当該である私自身は、支援団体や各議員、新聞社にこの事実を伝え、相談しました。杉並区の制度の運用は、厚労省や東京都の示している基準に合わせて改善されるべきだと考えているからです。

 違法でなければなにをやってもよいわけがありません。

 同部長は「事実関係」という文言を多用して、あたかも生活保護申請者・受給者である私本人が、意思表示を自主的に取り下げていると言い、当該の私本人とは別に、支援団体やネットニュース、新聞社と国会議員が「事実誤認、それから事実無根」な「福祉事務所や区政の批判」「福祉事務所を貶める」「いわれのない非難」を拡散させていると言います。しかし、新聞やネットにおける記事や、各議員の質問と発言は、まぎれもなく事実です。杉並区が「事実関係」という言葉で話し合いを拒否し、虚偽の答弁で区民を欺くのではなく、事実に基づいて問題を解決するとともに、事実誤認について区議会で謝罪することを求めます。

 私自身も記録の情報公開請求を3月3日に申請しましたので、速やかに記録を開示していただきますよう要望します。

 福祉事務所の現場の職員やケースワーカーの皆さんはとても誠実に献身的に仕事をされており、私は信頼し感謝しております。「円満に円滑に」関係を築くよう努力します。それと扶養照会の不適切な運用の改善を求めることは矛盾しないと思います。

 喜多川部長は現場のせいにしてはいけません。組織ぐるみで困窮者の人権を軽視する方針を上から現場に押しつけているのは部長ではないでしょうか。それとも、区長ですか。話し合いをできないということは、杉並区が国や都からの通達にも反する運営をやっている自覚があるからなのだろうと思いますが、いかがですか。現場の職員やケースワーカーの錯誤やミスではないと確信しています。

 私を嘘つきと呼ぶのなら、五分の魂をかけて、全力でたたかいます。

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 高木さんの勇気、その声に、福祉事務所は無視を決め込んだ。この手紙を読んだ杉並区長はどうお考えになるだろうか。区長選が迫っている。杉並区が何を大切にしているかが問われている。

※手紙の中の「公的な書面」は厳密には誤りです。書類事態は公的ではありませんが、厚労省の通知に基づいて作成された書面であり、「公的」に提出された申請者の意思そのものであります。


小林美穂子(こばやしみほこ)1968年生まれ、『一般社団法人つくろい東京ファンド』のボランティア・スタッフ。路上での生活から支援を受けてアパート暮らしになった人たちの居場所兼就労の場として設立された「カフェ潮の路」のコーディネイター。幼少期をアフリカ、インドネシアで過ごし、長じてニュージーランド、マレーシアで働き、通訳職、上海での学生生活を経てから生活困窮者支援の活動を始めた。『コロナ禍の東京を駆ける』(岩波書店/共著)を出版。