加害者が謝意を伝えられない“高い壁”
Inter7の共同代表の五十嵐弘志さんは、計20年服役した経験を持つ。長谷川君のように、獄中でのキリスト教との出会いをきっかけに更生し、出所後は受刑者の更生支援に尽力してきた。
Inter7には、加害者被害者双方の家族などから相談が寄せられており、被害者に償いたいという受刑者からの相談も多い。
受刑者が刑務所から直接被害者に手紙を送ることは許されておらず、弁護士など被害者との間をつないでくれる人が不在の場合、謝意を伝えることは叶わず、被害者から「謝罪がない」と残された家族に苦情が寄せられることもある。
原田さんは、死刑囚となった長谷川君との面会を特別許可されたが、死刑囚との面会は基本、親族に限られている。謝罪したい加害者と謝罪を求める被害者の間には、制度上の高い壁がある。
「被害者に謝りたい、償いたいと思っても、管理重視の日本の刑務所ではトラブルをおそれるあまり、あれもダメ、これもダメとあまりに制約が多く、何もしないほうがいいのではという気持ちにさせられてしまうのです」
直接、加害者と話をしたいというニーズは、Inter7の共同代表で交通事故被害を経験した片山徒有さん、弓指寛治さんも主張する。
原田さんは、決して加害者に甘い被害者ではない。被害者と向き合うことは、加害者にとっても恐怖であり、勇気がいることでもある。
「塀の中で、孤独に犯した罪と向き合い続けることは苦しいことです」
五十嵐さんは、生きる苦しさこそが償いではないかと語る。
犯罪報道では、被害者と加害者は分断され、対立する姿ばかりが強調される。しかし、Inter7が対立と分断を超えた先に目指す社会とは、世間が押し付ける被害者・加害者像から解放され、自分らしい生き方を選択できる社会である。
阿部恭子(あべ・きょうこ)
NPO法人World Open Heart理事長。日本で初めて”犯罪加害者家族を対象とした支援組織を設立。全国の加害者家族からの相談に対応しながら講演や執筆活動を展開。著書『家族という呪い―加害者と暮らし続けるということ』(幻冬舎新書、2019)、『息子が人を殺しました―加害者家族の真実』(幻冬舎新書、2017)、『家族間殺人』(幻冬舎新書、2021)など。