よゐこ、ますだおかだ、安田大サーカスら“まるで方向性の違う5組”

「松竹は昔ながらの上方芸人の伝統を受け継いでいるイメージがいまだに強くあり、ポップ、キャッチー、時流に乗ったタイプの芸人さんが出てきにくい印象です。売れた芸人さんを見ても、よゐこ、TKOなど、人間味や味があるというか、苦労したり身体を張ったりしながら花開いてきた感じの方が目立ち、松竹に入ってすぐ簡単に売れるというイメージが正直あまり感じられないかなと。

 一方で地力がしっかりある芸人さんが定期的に出てきている印象です。例えば、チキチキジョニー、Aマッソ(元松竹)のようなしっかり漫才をやっている“ザ・漫才師”というイメージがしっくりくる女性芸人が出てくるところなどは松竹らしい気がします」

 そう話すのはお笑い好きのライター・田下愛氏。前出の鈴木氏は松竹芸人について、

「幅広いジャンルの個性派がそろっている印象です。現在はマラソンランナーとしても知られる森脇健児さん、若手時代はシュールと呼ばれ、現在は穏やかな芸風で安定した人気を誇るよゐこ、M-1王者で個々ではマイペースな活動が目立つますだおかだ、くせ者ぞろいの安田大サーカス、前田敦子さんのものまねでブレイクしたキンタロー。さん。この5組だけを見ても、まるで方向性が違います。

 松竹芸能の重鎮である笑福亭鶴瓶さんは、アフロヘアにオーバーオールという落語家らしからぬいでたちで人気を博し、タレントとして確固たる地位を築きました。そうした固定観念にとらわれないスタンスが引き継がれているのかもしれません」

 松竹芸人も好調だが、“元松竹”も調子がいい。さらば青春の光、『R-1』王者となったお見送り芸人しんいち、正統派な漫才が人気の女性コンビ・Aマッソなど、“脱竹組”と呼ばれる面々だ。

「事務所を離れた芸人は、自分たちの力で道を切り開かなければいけないというハングリー精神を持っていることが多いので、それが結果につながっているのかもしれません」(ラリー氏)

写真左からAマッソの村上、加納 撮影/佐藤靖彦
写真左からAマッソの村上、加納 撮影/佐藤靖彦

「'10年代、松竹芸能の売れっ子といえばキンタロー。さんとクロちゃんでした。賞レースや特殊な活動以外で松竹の若手にはあまりスポットが当たらなかった。それは早くからネタに定評があり、現在大活躍しているさらば青春の光が'13年に退所した影響が大きいかもしれません。

 同時期、複数の若手が後を追うように事務所を退所。ヒコロヒーさんも上京を決意しています。その後'19年から“第七世代”ブームが起き、'19年のM-1の予選でみなみかわさんとヒコロヒーさんのコンビが芸人社会のジェンダーに切り込む漫才を披露して話題となりました。また、ギャンブル癖や借金癖のある“クズ芸人”が注目を浴びました」(鈴木氏)