CMソングが巷で話題も発売しなかったワケ

「拓郎さんって本当にたくさんの曲を作っているので、アルバムを持っていない人でも、誰もが1度は彼の曲を耳にしたことがあるはずです。わかりやすいところで言えば、CMの楽曲ですね」

 そう語るのは往年の吉田拓郎ファンの男性。

 確かに拓郎の曲は多くのCMに使われた。サントリー缶コーヒーのCMに採用された『今日までそして明日から』、TOTOやリクルートの求人情報誌のCMで使われた『人間なんて』などがおなじみかもしれない。

「CMのためだけに作った曲もあるんです。それらは商品を買ったら、そのオマケで販促用レコードとしてもらえたりした。一般には販売されておらず、アルバムにも入っていないんですよ」(同・男性)

ガイド本も出すほど、ハワイ好きとして知られる吉田拓郎。'02年の正月は森下愛子と夫婦でハワイに
ガイド本も出すほど、ハワイ好きとして知られる吉田拓郎。'02年の正月は森下愛子と夫婦でハワイに
【写真】吉田拓郎(当時26歳)と四角佳子の結婚式でみせたとびっきりの笑顔

 例えばどういう曲があるのだろうか。

サントリーのCM曲だった『ウイスキークラッシュ』はカセットテープの音源しかありません。これ、裏面が布施明さんなのです。拓郎さんがテレビ嫌いになったのは、布施明さんともめたから……というのは有名な話です。なかなか手に入らないお宝にはこんなクスッと笑えるエピソードもあるんです」(同・男性)

 と饒舌に語りつつ、あの有名アーティストが影響を受けたという、未収録のCMソングもあると続ける。

「富士フイルムのCMに使われていた『HAVE A NICE DAY』もそうですね。サザンの桑田佳祐さんはCMでこの曲を聴いて、自分も作曲をしようと思いたったと語っています」

 前出の音楽誌編集者は、ファンの間で長らく〝名曲”だと囁かれ続けたCMソングがあると明かす。

'72年に発売された軽自動車『スバル・レックス』のCMで流れる『僕らの旅』は、その後もファンに根強い人気があった曲でした。これは'02年に発売されたアルバムにアレンジされて収録されましたが、およそ30年以上も〝放置”されたままだったのです

 CM曲の収録にも参加していた、前出の常富氏に話を聞くと、

「懐かしいですね。富士フイルムのCMに僕らはコーラスで参加したんです。拓郎が高音、中音、低音とパートを決めて指揮もやってね」

 懐かしい思い出に、笑顔がこぼれる。でも、アルバムに収録しなかった理由は?

曲を作るときのモードが違うのでしょう。オリジナリティーを持つアーティストとしての吉田拓郎と、CM曲を提供する吉田拓郎は一緒にしたくないという気持ちがあったようです。僕としては〝アルバムに入れたら売れるのにもったいない”なんて思っていましたけどね。拓郎はハッキリと線を引いていました

〝こだわり”の積み重ねが、拓郎をレジェンドにした。