放送当時は賛否両論、失笑(失礼!)を買ったともいえるコメントだが、宝泉氏は「考えて出たものではなく、おそらく言葉が降りてきたのでしょう」と、賞賛する。また、2003年のパリ大会では、男子100m2次予選で、金メダル候補のアメリカのドラモンド選手がフライングの判定に抗議。トラックに寝っ転がってアピールした際に『事件はパリで起きています!』と叫んだ言葉も印象に残っているひと言。
「上手くはないですが、彼が言うことに意味がありますよね。何せ“本家”ですから。『踊る大捜査線』での功績なので、許してあげたいパターン(笑)。あと、2007年の大阪大会で為末大選手が男子400mハードルで予選落ちした時の『何やってんだよ、タメ』。このコメントは面白い」
この言葉は、ほかの解説者がではなく、織田が言ったことで面白さが出るのだという。
「この言葉を、もう少し競技や放送に対して深みがある人が発すると、いろんな計算が働いていると思いませんか? 決勝に日本人が出てくれないと視聴率が取れないとか、そういう“あざとさ”がチラついてしまう。でも、同じように悔しがるにしても彼は本気で怒っているんですよ。単純に、子どもが自分のことのように悔しがっているのが手にとるようにわかる(笑)。
そういった感情が滲み出ているので、前出のふたつとこのコメントは面白いなと思います」
日本陸上連盟と織田サイドの確執
しかし、「これ以外は、むしろ上手いことを言おうとして失敗しているケースが多い」と、指摘。その最たるものとして2009年のベルリン大会3連覇を狙う、女子棒高跳び金メダル候補のロシアのイシンバエワ選手を見て『ベルリンの壁を超えちゃうわけだ』について、
「“ベルリンの壁”というキーワードも、ベルリン大会だからアリなんだけれど、彼の場合、こういうコメントが似合わないというか……。棒高跳びには非常に使いやすい言葉ですが、考えて出てきた感じがあると、彼らしくないなと。
おそらく、彼は上手く言えたと思ったのでしょう。その後にも男子100mでジャマイカのボルト選手の走りに対して『ベルリンでは早くも記録の壁が崩壊しました』とコメントしています。同じ言葉で“2匹目のドジョウ”を狙うことで、また上手いことを言おうと考えちゃっている感じがします」
何年もMCをやっているうち、自分らしさだけではなく、もっと自分も進化したいという気持ちが強くなったのでは、と宝泉氏は分析する。
そんな中、2013年のモスクワ大会前に日本陸上連盟と織田サイドの確執が報じられた。織田の言動が“不謹慎”だと陸連には映っていたというのだ。その後もMCとして大会に関わっていくのだが……。