映像を観る限り、これらの動きは、まま大きく、山上容疑者は、挙動不審で職務質問を受ける恐れがあったと考えられます。自身の意図を隠すのがうまければ、アームアキンボーなどせず、また、首を動かすことなく、あるいは動かしても、もっと小さく、さらに目だけで周囲の情報を収集すると考えられます。
ゆえに(2)の可能性は低いでしょう。
目下、(1)(3)(4)(5)の可能性を考えています。
(1)については、さらなる動画や非公開の動画を入手することができれば、判断できる可能性があります。(3)については、マスクの下が確認できない以上わかりません。(4)については、一部報道で殺意があった旨の供述を容疑者はしているようです。その真偽を検討することで明らかとなるでしょう。(5)については、今後の科学研究の成果を待つしかありません。
さらなる情報が入り次第、分析・考察を深めたいと思います。
なお、送検される山上容疑者の表情や動作に、恥や羞恥は観られませんでした。通常、多くの犯罪容疑者―反社会的団体に属している人物含む―は、送検時や警察に連行されるとき、首を垂れ、うつむき、身体を小さく見せる動作・姿勢を見せます。唇を一文字に結んでいることもあります。これらは、恥や羞恥の表れです。
山上容疑者は、正面を向き、真顔(マスクの下はわかりません)を保ったままです。このことから自身の行為を、目下、正当化できている、あるいは、何も感じていないのではと考えられます。
シークレットサービスは表情読みが得意
ところで、表情や動作に浮かぶ危険な兆候から危険人物を検知することは容易ではありません。しかし、アメリカ大統領を警護するシークレットサービスは、通常の警察官よりも、表情変化に敏感であり、表情から虚偽検出するスキルが高いことが知られています。通常の警察官とは異なる専門的な訓練と経験ゆえでしょう。
シークレットサービスの訓練について言及は避けますが、彼(彼女)らは、表情を一つの重要な情報源としている、と言えます。また、科学知見に基づいて開発された微表情・危険表情を検知するツールが開発されており、アメリカでは、このツールを用いたトレーニングを受けた法の執行官らより一定の成果が報告されています。
今回の出来事は、攻撃対象があらかじめ定められていたケースでしたが、去年から今年にかけて、面識のない人を無差別に巻き込むケースが相次いでいます。小田急線や京王線内の刺傷事件や大阪クリニック放火殺人事件など凄惨な事件が思い出されます。
「攻撃を目論んでいる顔」を見つけることができれば、未然にその計画を防ぐ可能性を高められるでしょう。「理性を失った顔」に気付くことができれば、防御態勢を取ったり、逃げたりすることで、被害を最小限に抑えられる可能性を高められるでしょう。
警察官に限らず、誰もが、自分や自分の大切な人の安全を守るために、危機回避のための知識と観察力が必要かもしれません。
安倍晋三元首相のご冥福を心よりお祈りいたします。
参考文献:Matsumoto, D., & Hwang, H. C. (2014). Facial signs of imminent aggression. Journal of Threat Assessment and Management, 1(2), 118 128. https://doi.org/10.1037/tam0000007
清水建二(しみず けんじ)kenji shimizu
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役
1982年、東京生まれ。防衛省研修講師。特定非営利活動法人日本交渉協会特別顧問。日本顔学会会員。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』イースト・プレス、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』フォレスト出版、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』飛鳥新社がある。