それがやがてゆで卵をつぶす簡略系が広がり、今やさまざまなバリエーションに広がっている。天野社長は「卵は、和食でもイタリアンでもフレンチでも中華でも、必ず登場するじゃないですか。フレンチのソースなど、『これが卵?』と思うほど変形させることもあるし、硬さもいろいろある。自由自在に変形させられる食材」であることが、人気の要因ではないかと話す。
定番と異なる卵サンドが知られるようになり、卵の変幻自在な性質が再発見されて、独自のレシピで売り出す店が増えたことが、流行につながったと考えられる。
また、日本人は卵好きで知られる。肉食禁止の風潮がとくに強かった江戸時代に、卵料理は広まった。もしかすると、タンパク源として貴重だったことが卵食人気につながったのかもしれない。
どこか温かみがある味わいに癒やされる?
肉食が当たり前になった今も人気なのは、どこか素朴で温かみのある味わいが要因ではないか。コロナ前から硬めプリンも流行し、卵は最近人気が高い食材の1つと言える。
終わらないコロナ禍と、新たに始まったウクライナ戦争、そして迫りくるインフレ時代。不安材料がたくさんあるせいか、昔ながらの定番料理が装い新たにはやることが最近は多い。ドーナツ、ギョウザ、カレー。
あるいは、外国由来の新しい料理やスイーツが次々にはやることに疲れている人や抵抗感がある人も、懐かしグルメのバージョンアップなら手を伸ばしやすいのかもしれない。卵サンドに求められているのは、そうした安心感なのではないだろうか。
阿古 真理(あこ まり)Mari Aco
作家・生活史研究家
1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。写真(c)植田真紗美