さとみさんに任せきりの両親
さとみさんの両親が介護を担うということはなかったのだろうか。彼女は首を振る。両親とは話せば話すほど心が離れていくのを感じたという。
「親は『家族なんだからやってほしい』と言うばかりで私に任せきり。私も自分の意見を押しつけるばかりで……お互いがお互いの話を受け止めて話し合うことができなかった、それが問題だったと思います」
この経験からさとみさんは、介護者を孤立させないことが負担を減らすことにつながると強く感じているという。
「介護者を否定しないで、その人の話を聞いて、見守っていてほしい。助けを求められたら手を貸してあげてほしい。彼らに必要なのは協力だと思います。私は家族と一緒に介護をしたかった」
さらに、10代のころから祖母を介護していた元ヤングケアラーの男性はこう語る。
「僕は祖母の介護と引き換えに、友達、学業、職、そして時間を失った。看取った後、知人からは『おばあちゃんは孫に介護してもらって幸せだったね』と言われたけれど、はたしてそうだったのか。僕が本当に欲しかったのは、僕自身の生活と、祖母が幸せだと思える生活の両立だったと思う」
大切なのは、否定せずに寄り添うこと
ヤングケアラーを巡るさまざまな問題を解決する第一歩は「ひとりぼっちにさせない」。
家族でなくても、介護する子どもの通う学校の教員や地域の住民など、信頼できる大人が状況を把握して話を聞いてあげることがもっとも大切。
「まずは周囲の人たちがヤングケアラーの存在を認識すること。もし自分の周りにヤングケアラーかもしれない子どもがいたら、声をかけること。助けが必要であれば専門機関などへの相談を」(日本ケアラー連盟、以下同)
ただ、問題が難しいのは、話を聞くなかでケアをしている事実を決して否定的に取り上げてはいけないという点。介護者たちにとっては、家族との結びつきを強く感じたり、判断力が磨かれたりと、介護によって得られるものもあるからだ。
「自分しかいないんだ、という思いでケアをしている人もたくさんいるし、ケアをしている日常がアイデンティティーにもなっています。それを否定するようなことは口に出さないようにしてほしい。その子の気持ち、置かれている状況、そして立場を第三者がよく理解する必要があるのです」
進学先が祖母の家と近かったことで祖母との同居がスタート。
その後、大学院生のときに祖母が認知症を発症したため、就職後も介護を続ける。現在、祖母は施設に入居中(コロナの影響で面会ができていない状況)。
「たくさんの書籍を読み、自分は介護に必要以上に苦しんでいたと気づいた」という経験を漫画で伝え、一例として役に立ちたいと、孫・さとみ目線で描く“ほぼ実話”の介護マンガをTwitterで連載中。
日本に「ケアラー支援法」の制定を実現するためにロビー活動を行っている団体。ケアラー(家族等無償の介護者)、ケアラーを気遣う人、ケアラーの抱える問題を社会的に解決しようという志をもつ人が集い、すべての世代のケアラーがその人生を地域や社会全体で支えるしくみづくりをめざしている。
<取材・文/オフィス三銃士>