患者がとれる対策はかかりつけ薬剤師
供給不安のきっかけはジェネリック企業の不正だが、坂口氏はその背景について「ジェネリックが極端に安すぎることが遠因」と話す。どういうことか?
そもそも国が定める公定薬価は従来、市況に応じて2年に1回引き下げられてきたが、'21年からは毎年引き下げに変更され、薬価はスパイラル的に低下。よく使われる高血圧治療薬などは1錠が約10円と子ども向けの駄菓子よりも安くなり、もともと薄利多売で財務体力も脆弱なジェネリック企業の経営余力は失われている。
同時に、ジェネリック企業1社あたりの製造品目は、新薬中心の製薬企業の10倍以上の200~300品目であることが珍しくない。そのため同一製造ラインを適宜切り替えながら、自転車操業的な製造が常態化してきた。ところが不正の発覚後、製造手順を正さなければならなくなり、一時的な製造ラインの停止が必要に。すると製造計画が狂って収益に大打撃となる。つまり、過度な薬価引き下げで財務体質が悪化しているジェネリック企業が不正に手を染めやすい構造になった、ということだ。
前出の佐々木氏も同じ懸念を示す。
「ジェネリック企業のビジネスも限界なのではと心配になるほど、現在の薬は安すぎます。ここまで安いと企業のモラルハザードを誘発して品質や流通の安定に影響が出て、最終的に不利益をこうむるのは国民の健康になってしまう。必要不可欠な薬の流通を確保するため、国による新たな仕組みづくりが必要です」
現在、厚生労働省は製薬企業や医療機関、薬局の在庫を一元的に把握するシステムの構築で供給不安の解消に努めようとしているが、運用開始は早くとも'23年中。そもそも今の事態は製薬企業の製造能力に帰するため、同システムは対症療法にすぎず、医療機関、保険薬局、患者はほぼ打つ手はないのが現状だ。
そうした制約が多い中、患者がとれる自衛策について坂口氏は次のように語る。
「まず慢性的な病気で通院している人は、薬がなくなる日よりも1週間程度早めに受診する。また、処方箋の有効期限は発行から4日間ですが、薬局による入手の余裕も考えて期限ギリギリに持ち込まないことです」
また、最近では飲み忘れで余った薬を薬局で調整することもあるが、「薬を切らすと病状に大きな影響がある人は主治医や薬剤師と相談のうえ、災害対策も兼ねて、あえて余った薬を保管しておくことも必要」(坂口氏)だという。
さらに薬局向けコンサルティング企業の『実務薬学総合研究所』代表取締役で薬剤師の水八寿裕氏は、薬局の使い方にも工夫が必要と指摘。
「複数の医療機関を受診している場合でも、薬を受け取る薬局は自宅近くなどの1か所に決めて薬剤師と顔見知りになっておくこと。顔見知りの患者の使う薬はすぐに思い浮かぶので、供給不安なときでも確保に尽力してくれます」
薬不足の解消が見通せない今、「備えあれば憂いなし」は、自分や家族が服用する薬でも重要になってくるのだ。