イギリスに住む多くの人にとって、これは大きな衝撃だった。スペイシーは確かにアメリカの俳優だが、2004年から15年までロンドンのオールドビック劇場で芸術監督を務めていた。
2015年、スペイシーはイギリスの演劇界への貢献を高く評価され、大英帝国勲章2位(KBE)まで授与されている。「自分たちのスター」という思いが共有されていた。そんな「われらがスペイシー」が性的加害行為を行うとは。
2017年11月16日、オールドビック劇場は芸術監督時代のスペイシーによる加害の調査結果を発表し、これによると少なくとも20人が「不適切な行動」の対象となっていた。
ネットフリックスが主演ドラマ「ハウス・オブ・カード」シーズン6の配役からスぺイシーを外し、撮影が終わっていた米英合作映画「ゲティ家の身代金」はクリストファー・プラマーが代役となり、スペイシーの出演場面は撮り直しとなったことはよく知られている。スペイシーは米英のエンタテインメント界から締め出された。疑惑が出た時点で、徹底的な対処法が取られている。
非常に素早く、かつ過敏なエンタメ業界
イギリスでは性的加害疑惑に対し、非常に素早くかつ過敏とも言えるような連鎖反応が起きる。性的加害行為を働いた「かもしれない」という疑惑が出ただけで、新聞各紙はあたかもその人物が加害者であるかのように報道する。その芸能人を使う側の企業や放送局からすれば、何もしないわけにはいかなくなる。「疑惑が出たら、即、対処」がルールである。
とりわけ年少者に対する性犯罪は特にイギリスでは忌み嫌われている。これには相応の理由があった。過去を振り返ると、海外では高い評価を受ける寄宿制学校は、教師が男児に性的加害を行う温床となった。少年たちに人気があるサッカーやラグビークラブでも、コーチが少年たちの体を触る、レイプするなどの犯罪が発生してきた。後者についてようやく報道されるようになったのは比較的最近である。