弟は、大学に行くために上京してきたから、私が学費1年分を負担した……にもかかわらず、「この学校はおもしろくない」と辞めてしまい、違う大学に入学して高田文夫さんと友達になった。アタリ。今は麻布十番で焼き鳥店を経営している。

 志村けんさんや上島竜兵さんが何回か来てくださったそう。私が心配するくらい価格も安いしおいしいお店なんだけど、どうやって麻布十番で切り盛りしているのか不思議。

大山のぶ代と共同生活

 それ以前は、この連載でも触れたペコ(大山のぶ代)が住んでいたアパート。「うちに来なよ」と言われ、ついて行ってみると、雨漏りはするわ、トイレの床は抜けそうで、よく招待したなと感心したもの。でも、ペコはどこ吹く風で、タバコをふかしながら、「ゆっくりしていってね」というような顔。

 すると、ペコが「吸ってみなよォ」とあの声で言う。私がタバコを吸ったのはそのときが初めてだった。1箱30円のパールというタバコ。今思えば、まさか“ドラえもん”からすすめられるなんてね(笑)。

 ペコと私はその後、ちょっとランクアップした8畳2間で風呂なし電話なし、家賃8000円の木造のアパートに引っ越して、共同生活をすることになる。ペコはスマートボールに夢中で、暇を見つけては駒場東大前にあるスマートボール場に通っていた。

 いっぽう、私は麻雀に夢中になった。俳優座養成所のメンバーたちと、「一日一雀」をスローガンに打ち続け、すっかり麻雀の虜になってしまった。

 菊池寛原作の『時の氏神』を研究生たちで上演ということで、俳優座劇場で一生懸命稽古をしていても、「一日一雀」はお約束。私は『時の氏神』で人妻の役を演じたのだけれど、麻雀に夢中になりすぎて、開演の1時間くらい前までずっと近くの『地獄』という麻雀店で卓を囲んでいることもあった。

「眞奈美……人妻役なんだから首ぐらい剃ってくれよ」

 心配した研究生が忠告をくれるんだけど、牌を睨んでいる私はそれどころじゃない。気の優しい彼は、ついには「動くなよ」と私のうなじの毛を剃り始める。でも、私は麻雀を打ち続ける。その彼の恋人が嫉妬して怒り始める。開演前は、本当にドタバタ。青春─と呼ぶには、カッコ悪すぎたかなぁ。

冨士眞奈美
ふじ・まなみ 静岡県生まれ。県立三島北高校卒。1956年NHKテレビドラマ『この瞳』で主演デビュー。1957年にはNHKの専属第1号に。俳優座付属養成所卒。俳人、作家としても知られ、句集をはじめ著書多数。

〈構成/我妻弘崇〉