「公務員になって」その言葉の真意とは
しかし、公務員の就職が決まると、考えもしていなかった言葉が母親から飛び出した。
「東京にマンションを買って」
この言葉で母親が自分に求めていたのは、お金だけということにやっと気づいた。だが当時は、母親とのことより仕事のことで余裕がなかった。
「配属された部署で精神的な重圧と、人間関係で悩むようになって……。何度も異動願を出しましたが叶いませんでした。ピアノのレッスンも仕事との両立が難しくなり、有給休暇をまとめてとってレッスンを受けていました」
だが30歳を目前に心労がたたって退職。それがきっかけで「人生はいつどうなるかわからない。それなら好きなことをやろう」と演奏の仕事を探し、やっとのことでピアノバーでの仕事が決まった。ところがそのころから、母親に毒親化の兆候が出始めたのだ。
「母は私が生活の安定より、好きなことを選んだことに対して怒ってきました。電話をかけてきては“あんたは弱い。なぜ我慢できずに仕事を辞めたの?”と責めるようになったんです」
それから1年後、母の毒舌ぶりがヒートアップしていったのは父親が投資で失敗し、全財産を失ってからだった。父親は精神を病み、入院した。
「父の入院中、母は電話で父に対する恨みつらみを一方的にしゃべりまくりました。母の愚痴を聞くのも長女の務めと我慢していましたが、電話が終わると頭痛や腹痛が起こり、自分をケアするのが大変でした」
次第に母親からの電話に耐えられなくなり、友達に愚痴をこぼしていた絵里香さん。だが友達からは「どうしてそこまで我慢しなければならないの。私なら親子の縁を切る」とあきれられたという。
絵里香さんは友達の言い分はもっともだと思いながらも、母親を見捨てることはできなかった。このころから誰にも母親のことを相談できなくなっていく。