オタク・パワーがすべての源泉
森永さんといえば、ミニカー収集のコレクションをはじめ、オタクとしても有名だ。
埼玉県・新所沢駅から徒歩10分ほどの場所に、2014年、森永さんは自身のコレクションを展示する『森永卓郎B宝館』をオープンさせた。毎月第1土曜日の開館日には、全国から多くの人々が押し寄せる人気スポットになっている。
3階建ての瀟洒なビルの1、2階部分が展示室である。まさに圧巻のコレクションは、ミニカーだけで3万台。さまざまなフィギュアをはじめ、テレビ局のノベルティーグッズ、ハンバーガーチェーン店の景品、崎陽軒の醤油入れ、鉄道模型などなど、およそ12万点が所狭しと並ぶ。
これらのコレクションを本格的に収集し始めたのは大人になってからだという。大学在学中にミニカー熱が再燃、そしてテレビに出始めたころ、運命的な出会いを経験する。
「玩具コレクターの北原照久さんがMCをしている番組のレギュラーになったんです。それで“コレクター北原菌”に感染しちゃった(笑)。北原さんのコレクションはポップでおしゃれだけど、私が集めるのは本来、ゴミになるものばかり。グリコのおまけも大正時代から現代まで1万種超がそろっています。グリコ本社にだって3000しかない。私はかわいそうで捨てられないものを集めて、たまってしまったんです」
来館者にはリピーターも多く、全国のオタクが集い、一種の聖地のようになっている。
世界中のマニアが感激するコレクション
「世界中からマニアがやってきます。欧米、アジアなど、先日来てくれたメキシコの人は“ここにあるモノはどこにも売ってないモノばかり。だからすごい”と感激してくれました」
最近では、ファンが断捨離して、自宅などから出てきたコレクションを段ボールごと、B宝館へ送ってくるケースも増えてきた。
「このビルの3階には、そうして送られてきた、まだ陳列されてないコレクションがたくさん置いてあるんです。整理だけでも大変ですよ」
B宝館では、妻の弘子さんとスタッフの川岸靖子さんが来館者の対応にあたっている。館内のコレクションをすべて並べたのが、川岸さんだ。
「展示物を並べるだけで3年かかりました。オープン前日には毎月、横浜から泊まりがけで来ています。でも、楽しいですね」(川岸さん)
B宝館をつくるのにかかった費用は、なんと総額1億8000万円。
「固定資産税も取られるし、中身はガラクタなのにね(笑)。オープンから8年、人件費は出ませんが、イベントに展示物を貸し出すようになってから、ようやく収支がトントンになってきました」
前出の長男・康平さんは、B宝館を「父のワーカホリックの原動力だ」と言う。
「すべてのモチベーションがあのコレクションにあった。それは父のいいところだと思います。いろんな大人がいますけど、しょうもない大人より確実にピュアではある。人間は成長とともにピュアな部分が消えて、自己承認欲求ばかりになるでしょう。でも、父は“自分が楽しければいい”という人。それって実はとても大事なことなんですよね。そこだけは認めています」
森永さんには現在、5人の孫がいる。年に何回か「じいじ、ばあば」に会いにやってくる。そのたびに孫たちを畑に連れ出し、泥まみれになって遊ばせるのが常だ。
「畑仕事もあるし、B宝館もある。静かな老後は当分、やってくることはないでしょうね」
そう話す弘子さんの傍らで、森永さんはほがらかに笑うのだった。
取材・文/小泉カツミ(こいずみ・かつみ) ノンフィクションライター。芸能から社会問題まで幅広い分野を手がけ、著名人インタビューにも定評がある。『産めない母と産みの母~代理母出産という選択』『崑ちゃん』(大村崑と共著)ほか著書多数