YouTubeの発信も視聴者のために「明るく」を徹底

 失意から立ち上がるためでもあったYouTubeの発信。病気の体験談を話すとき、蔵之介さんがつらそうに語ったら、視聴する人も暗くなる。だからこそ、「明るく!」を徹底していた。

本当はすごくしんどそうなときもあったんですよ」と、間近で蔵之介さんをずっと支えてきた母の郁代さんは言う。

「でも、小さいころから蔵之介は、つらい治療のときもいつも笑っていましたね。妹のさくらは『YouTubeでしんどいところを出してもいいんじゃないか』って言ったのですが、蔵之介は『そういう動画を出している人はほかにもいるから、僕がやってもね。それに、しんどいってしゃべってもしょうがないやん』って。そんな子なんですよ」(郁代さん)

5歳の夏、名古屋へ家族旅行。直後に発病。
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【写真】大学の入学式の前日、スーツ姿のにゅーいんさん

 また、ふつうなら「人に言ったらカッコ悪いと思われるかも」という内容も笑い飛ばして語るのが、“にゅーいん流”だ。

「もうね、治療の影響で下痢になってオムツ……オムツだよぉ」、「がん患者の悩みに髪のことがあります。微妙な薄さですよねぇ。僕を見かけたらハゲと言わないでくださいっ」(蔵之介さん)

 蔵之介さんの話を聞いていると、白血病はそれほど大変な病でもなく、乗り越えられるんじゃないかとすら思えてくる。

「信頼できる医師を見つけたら、あとは言うとおりにしていればなんとかなるんじゃないかな」(蔵之介さん)

 人を自然に励ますとは、こういうことなのだ、と感じ入る。この語り口にジワジワとファンが増えていった。

 ある編集者も蔵之介さんの語りに強くひかれたひとり。「こんなに明るく自然に人を励ますことができる言葉を、YouTubeの視聴者以外にも広く伝えられないか」と考え、「蔵之介さんの言葉を本にしたい」と本人にオファー。すると、すぐさまOKの答えが返ってきた。

 YouTubeの語りに本人を取材した肉声を交えて綴った書籍が『いつか、未来で 白血病ユーチューバーが伝えたいこと』だ。この本には、蔵之介さんの言いたいことが、詰まっている。あのゆるーく明るい声が聞こえてくるようだ。

白血病は寛解するも

 2022年に入ってから、蔵之介さんの状態はあまりよくなかった。白血病は寛解していたが、肺の病気に苦しんでいたのだ。長い闘病生活と治療によるダメージなどが重なり、肺年齢が80歳まで落ちていた。そこに閉塞性細気管支炎という難病を発症。止まらない咳に苦しみ、呼吸器が手放せなくなった。

 著書の発刊を見届けられるのか─ひそかに周囲は心を痛めていた。それでも、本人も家族も前向きに生きた。当時、父の一さんは

「肺移植を考えています。肺移植ができれば、苦しさから解放されますから。ただ、白血病が寛解して3年がたたないとできないのです。それが2022年の12月。なんとか健康状態を保って頑張ってほしいのです」と語っていた。

 その日を数えながら過ごす日々。しかし、残念なことに、著書の見本を手にし、発売日の3日前を数えたところで、蔵之介さんは天に召された。