では、なぜ関西弁が好んで使われているのだろうか。前出の大学生・山本さんは自分や周りの友人が関西弁風のことばを使う理由について、次のように考えている。

「僕にとっては、関西弁はお笑い芸人さんのことばというイメージが強く、その場のノリやおもしろさを壊さないために自分も使うようになった気がします。友達がボケたときにも“なんでだよ”とツッコむより“なんでやねん”と言うほうがトゲがなくて自然な気がするし、“本当か”と尋ねるより“ほんまか”と聞くほうがマイルドな印象があります。何か頼まれたときも“いいよ”より“ええで”と言ったほうがしっくりくる場面もあったりして、状況に応じて関西弁のコスプレをしているような感覚ですね」

 さらに、前出の奥寺さんも関西弁を交えることで会話がスムーズに進むという。

「普段から漫才やコントで関西弁を浴びているので、そういったテンポのいい会話を友達とするときに関西弁はちょうどいい。顔の見えないメールやLINEで本音をやりとりするときも、キツくなりすぎないように“それはイヤやな~”なんて表現したりして柔らかさを出せるので、けっこう便利なんですよね」

関東人の“エセ関西弁”にむずむず

 一方で、こういった“エセ関西弁”を聞くとムズムズするという関西人も多いようだ。大阪府出身の友永悟さん(24歳・仮名)はこう語る。

「東京の人が話す関西弁を聞くと、少しバカにされているような気がして、正直あまりいい印象はありませんでした。ただ、“なんでやねん”や“知らんけど”みたいな関西の会話スタイルごと取り入れられているような表現を聞くと、関西を身近に感じて使ってくれているなと、それはそれで悪くはないなと思いますね」

 昔は「きつい」「うるさい」「怖い」といった印象を持たれがちだった関西弁も、世代によってそのイメージは変化してきているようだ。

関西弁が好きか嫌いかを東京の人に尋ねた調査が2000年ごろにありました。当時の40代くらいまでの人は関西弁に苦手意識があった一方で、若い世代になるほどマイナスの印象を持つ人は少なくなっていて、当時の30代以下の方のあいだでは関西弁を肯定的に捉える人のほうが多いというデータでした。20年ほど前の調査ですが、この傾向はおそらく今も変わらず、若い世代ほど関西弁を受容しているのかもしれません。関西弁だけに限りませんが、テレビで方言を使う芸人さんなどの影響もあってか、昔に比べると方言を肯定的に捉える人も増えているのではないでしょうか」(鑓水さん、以下同)