そのほかにも、“契約結婚”を切り口にした『逃げるは恥だが役に立つ』、“偽装結婚”から始まった恋を描いた『婚姻届に判を捺しただけですが』、父娘で臨む婚活が描かれる『持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜』など、単なる恋愛を描くのではなく、現代の結婚観や家族観に切り込む作品が続いている。基本的に自身の将来に迷う “崖っぷちアラサー女性”が主人公となり、恋愛は悩みの1つとして、仕事や親子関係を含む人間関係などと並列に描かれることが多い

「大人の鑑賞に堪えうるラブストーリー」

 そんな中、『silent』では高校時代に付き合っていた紬と想の2人が、突然の別れから8年が経った今、偶然再会するところから物語が始まる。

 8年の間に想は聴力を失っていたことがわかり“音のない世界”で2人が出会い直すという本格ラブストーリーが好意的に視聴者に受け入れられている背景には、高校時代の恋愛がベースに描かれていることが大きいだろう。

 このストーリーを主人公の職場などで展開しようとすると視聴者に現実とのギャップを感じさせてしまいかねないが、そんな雑念を寄せつけないのは、人が人を想う感情を丁寧に描き、視聴者に“初恋”に近しい感情を想起させるからだろう。

 この点については本作のプロデューサーを務める村瀬健氏もインタビューで、「大人の鑑賞に堪えうるラブストーリーを作ろうと思った」(「マイナビニュース」2022年11月2日配信)と明かしている。

「“展開”で盛り上げるのではなくて、“好き”という気持ちを丁寧に描いていくことで物語を展開させる」という企画当初から貫かれた狙いが、視聴者の年齢を超えた異例のヒットを生み出したのだろう。今後に迷うアラサー女性が主人公では共感できず、これまではABEMAなどが配信する恋愛リアリティー番組に流れていた中高生やZ世代を取り込むことができたのも、まさにこの点にあるのだろう。