現在のスタイルに至った理由
雨穴の大きな特徴である黒タイツに白いお面というスタイルも、考えがあってのことだった。
「作品を際立せるために、自分自身の情報量を少なくしようと思ったんです。ユーチューバーの見た目の情報量が多いと、中身よりも見た目に目がいってしまいますから。 なるべく目立たないようにと、今の恰好を選んだのがはじまりでした。今では主婦の皆様が雨穴のキャラ弁当を作ったり、親子で『変な絵』を読んでいただくなど、社会現象になっていると聞いています」
“情報量を少なくする”という言葉のとおり、自身の年齢や性別などのプロフィールをいっさい明かしていない。
「編集者さんとのオンラインミーティングでも、基本的にカメラをオフにしていて、素顔を明かさずにお付き合いをしています。チャンネル登録者数が50万人を超えたあたりからは、家の外で撮影するのもやめました。今も、家族以外に正体はバレていません」
30万部を突破した『変な絵』は、主婦層や若い女性をはじめ、多くの方々がハマる“国民的スケッチ・ミステリー”。日本だけでなく、中国や台湾など、すでに4か国から翻訳のオファーも殺到している。
「『変な絵』は10代から70代までと、本来のユーザー層よりも幅広い年代の方々が読んでくださっています。中でも、主婦や若い女性が多く読んでくださり、何かおかしい奇妙な9枚の絵に秘められた謎を解くのに夢中になってくださっているようです」
この作品は、得意とする絵と音楽を融合させたものになっている。
「1年前にYouTubeで『消えていくカナの日記』という動画を作りました。奇妙な絵から謎を解くという話なんですが、これを作ったときに、自分の中で手応えがありました。視聴者の方からの反応も大きかったので、絵を題材に、さらに長編の物語を作りたいと思っていたんです。
そのタイミングで編集者さんからお声がけいただき、『変な絵』の刊行に至りました。そして先日、このプロジェクトの“あとがき”にあたる “ロックオペラ音楽”をYouTubeで公開しました。小説を既読の人と未読の人では歌詞の意味が変わる、そんな音楽に仕上がっています。ぜひ、小説と合わせてお楽しみください」
ひと仕事を終えた直後だが、今後の目標もすでに見据えている。
「小説で賞を取りたいです。もちろん、動画制作なども今まで通りやった上での目標なので、長期的な話になりますが……。今までの作品は、読者のことをメインに考えて話を作ってきました。でも、もっと表現とか面白さを超えたものをやりたいなと思っていて。その一番の指標になるのは、賞を取るということに繋がっていくんじゃないかなと思っています」
『週刊女性PRIME』の読者に向けては、こんなメッセージを。
「『変な絵』の大きなテーマは“母性”なんです。この母性というのは、女性に限った話ではなく、男女問わず、大人も子どももお年寄りも、誰の心の中にもあると思っていまして。今回は自分の中にある母性に向き合って、この話を書きました。
なかでも私は、子育てを経験された、もしくは現在進行形で子育てをされている女性の方に対して興味がありまして、そういった方々のお話を書きたいなと思って出来上がった作品です。発表させていただいた歌にも、この母性に関するストーリーのヒントが隠されています。ぜひ『週刊女性PRIME』の読者のみなさまにも読んでいただきたいと思っております」
聞けば聞くほど謎多き作家、雨穴。本人の謎は解けそうにないが、『変な絵』の謎は解けるのかトライしてみたい!