平昌五輪からの約4年間、羽生は当時まだ誰も成功させていなかった4回転アクセル成功に挑んでいたのだが、その最終盤の時期である2021年12月の全日本選手権になると、「(4回転アクセル成功は)皆さんが僕に懸けてくれている夢だから、自分のためにももちろんあるが、皆さんのためにも叶えてあげたい」と話した。小さなころからの夢だった4回転アクセル成功と、支えてくれる人たちへの思いを、いつの間にか融合させていたのだった。
プロになってもチャレンジは続く
2022年7月19日、羽生は「プロのアスリート」に転向した。
「むしろここからがスタートで、これからどうやって自分を見せていくのか、どれだけ頑張っていけるのかが大事だと思っている」と話していた羽生は、それから4カ月半ほどしか経っていない今、すでに、これまでに見たことのないものをいくつも見せている。
自身のYouTubeチャンネル『HANYU YUZURU』を開設し、自ら発信するようになった。「SharePractice」と命名したホームリンクでの練習を、報道陣だけでなくYouTubeチャンネルの生配信でも公開(10万7000人超がライブで中継を視聴)。
さらに、90分間完全に1人で滑り切るアイスショー「プロローグ」を立ち上げた。羽生は総合プロデューサーとして、企画からショーの構成、演出なども手掛け、11月に横浜で、12月に八戸で、公演を終えたところだ。これらいずれも、数カ月前にはだれも想像もしていなかったこと、前代未聞の初めてのことばかりだ。
プロ転向後に新たな形で活躍する姿を見て感じるのは、この先も羽生にしかできない、彼だからこそできるものを、彼ならばきっと見せてくれるだろうという期待だ。そうしたものはきっと、「(羽生が)支えてもらっている人たち」の支えになっていくだろう。
そして羽生は、次の挑戦も明らかにした。やはり単独アイスショーである「GIFT」を、来年2月26日、東京ドームで開催する。観客に「感謝の贈り物」を届けるこれまでにないスケールのショーだという。
「これまで演技をしていくに当たって、本当に心が空っぽになってしまうようなこともたくさんありました」「自分のことを大切にしてきてくださった方々と同じように、自分自身も大切にしていかなきゃいけないなと思っています」
叶うのならば、これからの羽生が挑むものが、羽生自身にとっての支えに、もっと言うと生きる喜びのようなものにつながれば、と思う。
長谷川 仁美(はせがわひとみ)Hitomi Hasegawa
ライター。静岡市出身。1992年からいちファンとして、2002年からはライターとして、国内外フィギュアスケート全般を観戦&鑑賞。雑誌や書籍、世界選手権などの大会やアイスショーの公式プログラム執筆。スケートの一筆箋も。