家族のお守りとして「遺言書」を作成して共有する
民法上、遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つの方式がある。曽根さんは手軽な自筆証書遺言でもよいと言う。
「法的な有効性では公正証書遺言がもっとも優れています。ただし、費用が発生するなどのネックも。自筆証書遺言であれば費用の負担なく、その名のとおり自身で手軽に作成できるためニーズは高いです」
親に自筆証書遺言を作成してもらう際には、書き方に注意しなければならない。一定の要件を満たさないと無効になってしまうからだ。
「例えば、内容、日付、署名などは遺言者本人の自筆であることが絶対です。押印も必須となります」
完成した遺言書は相続人で共有する。ここまでやれば万全といえるそう。
老後の安全のため前向きに準備を
「あとは遺言書の保管も注意すること。自筆証書遺言は本人が保管することになるため、紛失や改ざんのリスクを伴います。ですから自宅ではなく、法務局に預ける制度の利用が最善策です。内容の不備をチェックしてもらえるのと、親が亡くなった際に相続人である親族に通知されるので安心ですよ」
相続というと後ろ向きになりがちで、誤解も多い。しかし何もしなければトラブルの可能性は高まるばかり。もし親が認知症になったら手続きは困難を極め、遺言書の作成もできなくなってしまう。
「相続は早めの準備が何よりです。親のサポートを前提に寄り添ってお金の話を聞くことで親子の絆を深め、その流れで相続もきっとうまくいくでしょう」
ここがNG!
【1】本人が自筆していない
すべて本人の手書きが必須。パソコンで作成は無効
【2】間違いを修正液で直す
訂正箇所には二重線と押印、変更した旨を記す
【3】作成日があいまい
「○月吉日」など、明確でない日付の書き方は避ける
【4】著名・押印がない
手書きの署名・押印も忘れがちなので要注意
相続の備えに対するありがち誤解と、正しい理解を曽根さんが解説!
●認知症が心配だから、元気なうちに家族信託を利用しようと思う
「家族信託は親が子に財産の管理・運用を任せる制度。認知症だと契約できないため急ぐことは正しいですが、費用は高額です。賃貸事業を行っているなど億単位の資産を持つ人は必要ですが、全員が必須ではありません」
●要介護認定を受けているから、もう遺言書を作れない
「重度の介護を必要とする要介護4、5と認定されても、遺言書を作成できないわけではありません。要介護度は身体的なもので意思能力とは異なります。意思能力さえしっかりしていれば遺言書の作成は可能です」
●相続税対策に金の仏像、おりんなどを購入する
「お墓や仏壇は非課税財産なので、生前に購入しておくと節税対策になります。しかし金の仏像やおりんなどは日常的に必要とはいえません。金の資産として課税されることになるでしょう」
教えてくれたのは……曽根惠子さん ●夢相続代表。日本初の「相続実務士」として1万4900件以上の相続相談に対処。『親が元気なあいだに子どもがヒアリングしながら書く相続ノート』(秀和システム)など著書多数。
〈取材・文/百瀬康司〉