4年半で4000件以上の依頼
そもそも、森本さんがこのサービスを始めたのはなぜか。開始時は交通費などの諸経費だけで、依頼料をもらうこともなかった。
「なんとなく始めた、というのが本音です。ただ参考にした人はいて、ツイッターで僕より前より活動しているプロ奢ラレヤーという人です。当時は住所不定、無職、他人に奢られることで生計を立てていて」
プロ奢ラレヤーが見ず知らずの人に奢られることを”生業”とするのを見て自分に置き換えた。
「もともと働いていた出版社では編集者をやっていたのですが、あまり馴染めず、辞めてフリーランスでライターを始めました。でも、それもしっくりこなくて。無理をせず何か面白い生き方ができないかと模索しているときに、プロ奢ラレヤーの存在に気づき”レンタルなんもしない人“を思いついたんです」
“レンタルなんもしない人”ならば、自分の欠点も生かせると思ったという。
「学生のころから『お前、何もしないな』と言われたり、会社の上司から『いてもいなくても変わらない』なんてよく言われていて。僕は“なんもしないこと”がコンプレックスだったんです。けど、プロ奢ラレヤーさんを見て、逆にそれを売りにできないかと考えました」
森本さんはこのサービスを始める前から結婚しており、息子も一人いる。だが、妻はこの活動をツイッターで見て初めて知ったという。
「今までも僕が変なことをするのを繰り返し見ていたし、妻はそんな自分の気質をわかっているので、“レンタルなんもしない人”のことを知ったときも特に何も言われなかったですね」
森本さんへの依頼は多いときに月100件くらいくる。この4年半で少なくとも4000件ほど受けたのではないかと振り返る。
「依頼内容は、お店やイベントに行きたいけど、1人では行けないから、というものが多いです。身近な人に話せないから話を聞いてほしい、もよく依頼されます」
すべての依頼者と会っているわけではなく、DMでやり取りするだけのものや、「『ダメ』と返信してください」といっただけのものなど、これで1万円を払うのかと思える案件も。
「お金に余裕のある人が依頼していると思われがちですが、そうではありません。深くは聞ききませんが、依頼理由にはそれぞれの事情があり、何に対して価値を感じるかは人それぞれだと思います」
1万円以上払われることもしばしば。依頼者が支払いたいというなら森本さんは断らなない。「○○カッコいい」と言ってください、という依頼で6万2000円支払われたこともある。今年に入ってからは水際対策が緩和されたこともあり、初めて海外へも足を運んだ。
「一緒にご飯を食べてほしいという依頼でした。女性の依頼者はひとり旅で韓国に4、5日滞在していました。どこへ行くにも基本的には気楽なひとり行動が好きなようなのですが、食事も全部ひとりというのはつまらないからと。晩御飯を1度だけ一緒に食べました」
かかった諸経費はもちろん依頼者が全額負担。他にも海外からの依頼も来るそうだが、コロナがやや落ち着いてきたからこそだろう。始めたころと比べ、さらに様々な依頼が来るようになったようだが、ときには人生において重要な場面に立ち会うケースも。10月末ごろにあった依頼ではーー。
「出生届の提出に同行してほしいという依頼がありました。諸事情で父親側には頼めず自分だけで行かないといけないけど、出産直後で身体はボロボロ。歩くのもつらく、1人だと不安だから付き添って欲しいと。骨盤ベルト装着で現れ『会陰(えいん)が痛い』『股の骨割れそう』と呻きつつ無事提出し、『これでうちの子、存在してますよね』と安心されていました」