ド派手なパフォーマンスで人を驚かせ、ある意味、常識破りな新庄監督。'22年のペナントレースでは、チームが最下位に沈むも、アンケートで2位に入るほどの人気は、彼の言葉に人の感情を動かす力があるからだという。
「例えば、吉田輝星選手の投球をブルペンで見たとき“めっちゃ速くね? 俺、現役のときに打てないわ。速っ”とタメ口でコメントしていました。これが“速いですね、いい球です”と冷静に言われるよりも、選手には心に響きますよね。
部下は論理性かつ合理性を求めながらも、真逆のエモーショナルな部分も求めています。人間はハートで動くから、どんな正しいことを言われても、ハートに響かないと伝わらないし、動かないんです」
こういった傾向は、48票で3位に入った箱根駅伝で有名な青山学院大学原晋監督(55)、44票で4位に入った、野球日本代表の栗山英樹監督(61)にも当てはまるという。
3位 原晋監督(48票)、4位 栗山英樹監督(44票)
「選手と寝食を共にし、選手たちのプライベートもよく知る青学・原監督。栗山監督は、日ハム時代にキャンプイン初日から選手全員と毎日一対一で直接話をするなど、選手一人一人を大切にする姿勢を見せていました。こうした姿勢が部下である選手の心に響くんです」
アンケートでこのふたりを選んだ理由を見ると、
「原監督は決して偉そうな態度をとらないし、選手の個性を把握して上手く伸ばしているようにみえる」(石川県 女性 38歳)
「大谷選手の二刀流を後押ししたときもそうだけど、選手それぞれの長所をちゃんと理解して伸ばしているところが栗山監督はすごい」(鹿児島県 男性 37歳)
と、“対話”を通じてハートを打つ指導に惹かれている人が多かった。こうした短所へのダメ出しではなく長所を伸ばすことは、脳科学的にも理に適っているのだと小倉さんは話す。
「論理的に考えることを司っているのは、前頭前野を中心とした大脳新皮質の働きです。これは人間にしかない、新しい脳の部分。しかし、この新しい脳は相手から否定されたり考えを押し付けられると、活動が止まります。否定されたことで古い脳である大脳辺縁系が反応し、大脳新皮質への血流が20%程度低下することが明らかになっているのです」
この大脳辺縁系という部分は仲間意識、動物でいえば群れを作ることを司っているという。
「子どもがいじめられて、自死を選んでしまうニュースがありますよね。これはまさに自分を否定されて“群れ”から追放された状態。常に“群れを作り外敵から身を守ってきたホモ・サピエンスを祖先に持つ人間にとって、群れから外されるということは死を意味します。
だから、ダメ出しをして問題点を直していくというやり方は効率が悪い、というより無理なんです。大脳辺縁系が反応しないようにするには、ネガティブなダメ出しをやめてポジティブな要求に言い換えること。“遅刻するな”ではなく“早く来ようね”と言うことです」(小倉さん)
スポーツ界でもビジネス界でも「他先進国のリーダーにとっては、このような考え方は当たり前」と、小倉さんは日本のリーダーたちを憂う。
「日本の名だたる大企業から、GAFAなどへの人材の流失が止まりません。優秀な人ほど日本型の古いリーダー論に疑問を持ち、もっと働きやすく、待遇もいい企業へと移っています。古い考えに囚われているリーダーがトップにいる、旧態然の日本の企業は、このままでは衰退していくでしょう。
今回のアンケートの結果から、若い世代が新しいリーダー像をわかっていることが救いかもしれません。彼らがそれを体現して、組織を変えていって欲しいですね。もっともそれまで、日本企業が存続できれば、の話ですが」