最初は自宅で絵本の会を開催
絵本の素晴らしさを伝えることを仕事にするために、絵本講師の資格を取得したのは2011年。
「当たり前ですが、講師になりたての私に講演させてくれる場所はありません。そこで、まずは自宅リビングで『絵本を楽しむ会』を開こうと、手書きのチラシを作成。子どもがいそうな近所の家にポスティングすることから始めました」
ところが、申し込みはたった1組の親子だけ。
「1対1ではあちらが緊張してしまいますから、ママ友と義妹にお願いして、3組の親子が参加している体裁を整えました。でも、それ以降は参加者がママ友を誘って来てくれて、半年後には20組くらいの親子が集まるように。わが家は黄色い外壁でしたから、場所の名前は『きいろいおうち』にしました」
集まるママの中に幼稚園の役員をしている人がいて、園での講演を頼まれ、やがて書店やショッピングセンター、さらには自治体からも講演依頼が入るようになった。
「1日に講演を数本かけもちするような忙しい状況となったのが2015年ごろ。でも謝礼は数千円、多くて2万円程度。会社勤務と絵本の仕事のダブルワークでしたから、経済的に困ることはありませんでしたが、とにかく忙しくてずっとこんな生活が続くのか、と焦りを感じ始めました」
同時期に離婚。シングルマザーとなり会社は辞められない状況となった。しかし、1人のママとの出会いによって、内田さんは考えを変える。
「幼稚園での講演後、目に涙を浮かべたママから『私、今日から子どもをたたくのをやめます』と言われました。1組の親子を救えたことを実感して、私はすべてをこの仕事に捧げよう、と決意したんです」
そのためには絵本の仕事だけで生活していける状況を整えなければならない。
「同時にもっと講演の回数を増やさねば、という思いも湧き上がりました。なぜなら、私はこのママのように子育てがつらい人にこそ『待ちよみ』を届けたかったんです」
子どもをかわいいと思えず、言葉かけが難しいときでも、絵本をただ読むことはできる。
「絵本の読み聞かせは子どもにとってわかりやすい愛情表現。ママの思いがどうであれ、子ども自身が愛されていると実感して、周囲から見ても子どもを愛しているママに見えたなら、それはもう子どもをかわいがっているということになります。それに1つ確実にできることがあると、ママの心は安定する。それは子育てのつらさをやわらげることにつながるはずです」