ストレスを減らし“卵巣ケア”を
実際に放生先生がすすめているのが、“卵巣ケア”だ。年齢にかかわらず、妊娠を目指すすべての女性にまず大切にしてほしいことだという。具体的にどういうものなのか。
「わかりやすく卵巣を“水槽”に、その中に存在する卵子を“金魚”にたとえて説明しましょう。金魚が元気に泳ぐためには、水槽の水を循環させ、水温を管理するなど、水槽の中のコンディションを整える必要があります。これと同じように、卵巣のコンディションが整い、健やかであれば、いい卵子が育ちます。自然妊娠にしろ、不妊治療による妊娠にしろ、妊娠が成立するためには質のいい卵子が存在している必要があります。
卵巣は女性ホルモンが分泌される場所。卵巣が疲れていたら、いい卵子は育たず、妊娠にも影響を来すのは当然です。不妊治療というとどうしても金魚(=卵子)にばかり目を向けがちですが、もっと水槽(=卵巣)にも目を向ける必要があるのです」
放生先生のクリニックでは、カウンセリングや各種検査を行い、漢方薬やサプリメントなどを処方して身体を整え、なるべくストレスを減らし、卵巣をケアしている。
卵巣をいい状態に保つことで、妊娠しやすい身体に近づけていくのだ。卵巣ケアをせぬままに、いきなり不妊治療の扉を開くことは、近道のようで遠回りだと放生先生は話す。
「不妊治療をされている人も、ぜひ卵巣をケアしながら治療を続けてほしいのです。卵巣は、わずか親指の第一関節程度の大きさしかない、とてもデリケートな臓器。体外受精では、その小さな臓器を刺激して採卵を行います。
多くの場合、一度に多くの成熟した卵子が採取できるように排卵誘発剤を使います。成熟した卵子を数多く採取するために、貴重な卵子をたくさん覚醒させ、消費してしまうことになるのです。当然、女性ホルモンのバランスが崩れ、身体には強いストレスがかかります。私は年齢が高くなればなるほど、刺激の強い排卵誘発は行わないでいただきたいと思っています」
最近では「自然周期排卵」「低刺激周期採卵」で“卵巣にやさしい”体外受精を行うクリニックも増えてきた。
「体外受精の技術が優れている医療機関ほど、卵巣の中の卵子の扱いは丁寧です。体外受精を受けるなら、このように女性の心と身体にかかる負担を最小限にする努力をしているクリニックを選ぶことも大切です」
不妊治療と“共存”するべき自然妊娠
不妊治療は自然妊娠を否定しない、というのが放生先生の信条だ。つまり、不妊治療を受けているからといって、自然妊娠の可能性がなくなったわけではないということだ。
「明らかに不妊の原因を指摘されている場合を除いて、私は、どのカップルにも自然妊娠の可能性はあると考えています。妊娠の機能に問題のないカップルが、1回の排卵周期で妊娠する確率は15~30%。不妊治療を続けながら、自然妊娠の可能性も捨てずにいることは、妊娠の確率アップにつながります」
カップルが力を合わせて妊娠力を高め、自然妊娠に結びつけるためには、3つの法則がある。
「1つは基礎体温表をつけること、2つ目は排卵日検査薬を併用すること、そして3つ目は夫婦生活を増やすことです。基礎体温は婦人体温計で測ります。その結果となる基礎体温表は、卵巣のコンディションを知るための重要なデータであり、まさに家庭でできる不妊検査。最近では基礎体温を測ると自動的にグラフ化してくれるスマホアプリなどもあるので、ぜひ活用してください。
排卵日検査薬は、スティックに尿をかけることで、排卵日が近いことを知らせてくれるもの。薬剤師のいるドラッグストアなどで購入できます。基礎体温表と排卵日検査薬があれば、おおよその排卵日は予測できます。そのうえで、基礎体温の最低体温日の前日からの5日間、夫婦生活を増やすのです。
昔からよく行われてきた方法ですが、この当たり前のことをしないで、不妊治療を開始し、そのストレスから夫婦生活もほとんど持たず、不妊に悩んでいるカップルが多いのです」