43歳を過ぎたら検討すべきこと
放生先生は、いまこそ原点回帰が大事なのだというが、不妊治療における高度生殖医療の技術の進歩は目を見張るものがある。ストレスを感じることなく不妊治療を続けるには、どうすればいいのだろうか。
「不妊治療をなるべく上手に日常生活のなかに取り入れることです。私はよく、“妊娠は忘れたころにやってくる” “妊娠は追いかけると逃げていく”とお伝えしています。不妊治療を始めると、どうしても意識が不妊治療だけに向きがちになります。そうではなくて、メインに仕事や家事など自分の生活があり、不妊治療は脇に置くくらいのスタンスがちょうどいいのです。
私のクリニックにも、毎回スーパーの袋をさげて来る女性がいました。時には袋から大根がのぞいていたことも。それくらい生活の一部になっていたのでしょう。“今月も生理が来た”と憂鬱(ゆううつ)になるくらいなら、ふたりでおいしいものを食べたり、旅行でリフレッシュしたりするほうが、よほど妊娠に近づくこともあるのです」
冒頭で紹介した、体外受精の保険適用範囲の拡大には年齢と回数に条件がある。女性の治療開始が、「40歳未満は一子につき6回まで」「40歳以上43歳未満は一子につき3回まで」、そして、43歳以上は保険適用外なのだ。これは、43歳を過ぎると体外受精で出産に至るのは5%以下というデータを反映したものであろう。
「保険適用外になってしまったからといって、決して43歳以上の女性に妊娠を諦めなさいと言っているわけではありません。このことがかえって、43歳以上の女性たちを自費診療による不妊治療に走らせているのだとすれば、とても残念です」
不妊治療はやめ時が難しいという。そろそろ卒業しようと思っても、いざとなるとなかなか踏ん切りがつかず、ずるずる続けてしまうケースも多い。
「酷な言い方に聞こえるかもしれませんが、私は43歳を過ぎたら不妊治療からリタイアすることも考えてほしいと思っています。体外受精での妊娠・出産の可能性が低くなるからこそ、原点回帰して、卵巣を大切にしながら自然妊娠の可能性を探ってほしいということです。それが、これから更年期を迎える女性の卵巣を、本当の意味でケアすることにもつながるのではないでしょうか」