「ここは渋谷だな」「これは御殿場」「ところどころ覚えてるなぁ」と、映画を見ながらボソボソとブーさんが話しかけてくる。リアルオーディオコメンタリー状態だ。劇場に来ている多くは当然のごとくドリフ育ちでドリフファン。そこに本物の登場だ。志村さんじゃなくても加トちゃんじゃなくても、当然、上映後に「ブーさん!」「ブーさん!」と、ファンたちが殺到する。

ザ・ドリフターズ、いかりや長介さん、志村けんさん、仲本工事さんがなくなってしまった
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高木ブーというポジションのままに生きること

 その中にいたのが当時まだ大学生だったホフディランの小宮山雄飛。彼は大学で「ドリフ研究会」の一員で、ドリフマニアとしても一流の存在でもあった。ここから生まれた交流から97年にはブーさんのソロシングル『GOOD!』を作成、共演に至っている。冒頭のインタビューがご縁となり、ブーさんの著書『第5の男 どこにでもいる僕』(朝日新聞社)も’03年に出版された。

 その後も現在まで続く関係の中で感じたことは、やっぱり「ブーさんはブーさん」だということだ。

 よく紹介される「すぐ寝る」というエピソードそのままの姿も何度も目撃し、好きなものを中心によく食べる。マイペースで生きるということ、それこそが大事なことだとあらためて思ったりもする。

 先記したドリフ映画特集がきっかけとなった、ドリフを見て大きな影響を受けて大人になった世代との交流も刺激になったと語っていたブーさん。「第5の男」を自認するように、決して無理して前に出ようとせず、高木ブーというポジションのままに生きること。最近のインタビューでも流れに身を任せることで、気がつけばここまでやってこられたと語っていた。

 いっぽう、ゆるゆるしているようでいて、ひとたびカメラを向けられれば、瞬時にニッコリとタレントとしての完璧な笑顔に切り替わり「さすがだ」と驚いたことも何度となくあった。

「世界最高齢現役コメディアン」とも言われ、特番で加藤茶と新作コントを披露したり、イベントなどにも精力的に出演し、90歳を無事迎えたブーさん。「第5の男」は、もしかしたら実質「第2の男」になっているのかもしれないが、それもまた、「流れ」でそうなっただけ。ブーさんの本質はたぶん変わらない。

 90歳ブーさんにはぜひ最新版「高木ブー的な生き方」を披露してもらい、多くの人に元気と笑顔、そして希望を与えてもらいたい。

(文/太田サトル)